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総合診療部について

窪田 満の画像

総合診療部 統括部長  窪田 満

基本情報

総合診療部のビジョン「Until Every Child Has a Smile」

国立成育医療研究センターの前身の国立小児病院では、臓器系統別の診療科のみで、総合診療部は存在しませんでした。2002年3月に5番目のナショナルセンターとなった国立成育医療センターは、専門診療科とともに総合診療部を配置し、両者が車の両輪のように診療を推進し、特殊な病態を持った子どもたちのケアだけではなく、子どもの問題全般にかかわり、社会の将来を担う者すべてに開かれた医療を行う、という理念を掲げ、ここに総合診療部が誕生しました。
ところで、ボストン小児病院のロゴには、「Until Every Child Is Well」と書いてあります。「すべての子どもが元気になるまで」、確かにその心意気はすばらしいと思います。当センターでも最高のレベルの高度医療を提供しており、特に専門診療科には「Until Every Child Is Well」という気概があると思います。

しかし、病気が治癒するという結果のみが重要なわけではないと、総合診療部は考えています。元気な子どもでも、高度な医療を必要としている子どもでも、慢性の疾病を抱えて生きていく子どもでも、医療的ケアが必要な子どもでも、生命の危機に直面している子どもでも、「どのような状況にいる子どもであっても、笑顔でいられる」。患者とその家族を中心とした暖かい医療、質の高い医療を目標に掲げます。私たちは、子どもたちのサポーターとして、常に多職種連携のチーム医療の中心にいて、高度先端医療を支えています。子どもたちやそのご家族と向き合い、寄り添い、共に考え、子どもたちの笑顔のために真摯な態度で取り組んでいきたいと考えています。私たちは、チーム全体で、その患者さんの最善の利益を求めていこうと、そしてそれに責任と誇りを持とうと思っています。それが「成育品質」であると考えます。

小児の総合医とは

小児の総合医とはどんな医師なのでしょうか。よく「全人的な診療」という言葉を耳にしますが、それはあまりにも漠然としていますし、子どもが病気になると言うことは、本人のみの問題ではありません。私たちは図のように、子どもが病気になったことで生じるWell-beingの変化をサポートするのが小児の総合医ではないかと考えています。

Wellbeingの再構築のイメージ画
子どもが病気になった際に、子どもだけ、ましてや病気だけ診ていても、こどもや御家族は幸せになれません。Well-beingとはBio-psycho-social(身体的・精神的・社会的)に良好な状態にあることを意味する概念で、「持続する幸せ」を指します(Happinessは感情的な短い幸せを指すと言われています)。もちろん、子どもの病気は本人にも、家族にも身体的・精神的・社会的な影響を与えます。しかし、それは不幸になると言うことではなく、違う幸せの形に変化するのだということを、私たちは患者さんと御家族から教わってきました。在宅で人工呼吸器を使っているような患者さんのお母さんが、楽しそうにその子との暮らしをお話しするとき、「新しいWell-being」が再構築されたのだと実感します。

私たちには、疾患(Disease)をしっかりと理解するのは当然ですが、それに加え、患者さんや両親、兄弟の思い(Illness)を共感を持ってお伺いし、子どもが病気になったことによる生活の変化、社会との関わりの変化にも対応することが求められています。疾患の理解のみならず、患者家族を統合的に理解することを基盤として、自分たちの力を結集し、新しいWell-beingの再構築をサポートするのが小児の総合医であると考えています。以下にお示しする総合診療部のミッションは、その考えのもとで実践されています。

総合診療部の陣容

総合診療部は、総合診療科、救急診療科、在宅診療科、緩和ケア科の4科体制をとっています。

総合診療部のミッション

① 診療

  1. 急性期入院の診断、治療(どんな患者でも診療する)(気管支喘息や胃腸炎などのcommon diseaseを受け持つ)
  2. 高度先端医療のサポート(呼吸管理や栄養管理)
  3. 医療的ケア児への包括的診療
  4. 緩和ケアや看取りの医療への取り組み
  5. 児童虐待への対応
  6. 健やかな子どもの「生活」と「育ち」のサポート(発達、育児、傷害予防への取り組み)

子どもとご家族の笑顔を奪わないように、私たちは、新型コロナウイルスに感染した子ども達(小児COVID-19患者)を含め、「どんな患者さんでも診療する」という行動指針を掲げています。特に救急診療科は診療を断ることがありません。診療を断らず、他人に押しつけず、「自分たちが診る事がその児と家族にとって最善である」と言えるような医療を目指しています。私たちは、東京都の小児COVID-19患者診療の中心的役割を担ってきました。救急診療科が外来を担当し、軽症〜中等症の入院診療は総合診療科が担当していますが、もちろん、この難局への対応は総合診療部だけの力ではなく、病院全体の理解と推進力があってこそと考えます。また、総合診療科は、COVID-19以外の一般的な急性期疾患(急性気道感染、気管支喘息、川崎病、尿路感染症等)からNICU・PICUからのハイケア児、医療的ケア児、重症心身障害児まで、幅広い病態の患児に対して包括的なケアを実践しています。成育基本法、成育医療等基本方針、そして医療的ケア児支援法の理念に沿った形で、総合診療科は全ての子どもたちに対し、身体発育・栄養・食育・神経発達・行動発達・家族指導・育児指導の面からサポートしています。専門診療科による高度先端医療のサポート(呼吸管理や栄養管理)も行っています。また、どんな子どもでも家族と共にいることが、笑顔になれることだと考え、医療的ケア児、重症心身障害児に関する地域との連携が在宅診療科の努力で徐々に成熟してきています(これは救急診療科が24時間対応で支えていることも大きいと考えます)。一方で、現代の医学でも救命できず、死に至る子どもたちがいます。がん、非がんを問わず、小児の緩和ケアや看取りの医療は重要な領域であり、緩和ケア科が胎児/新生児から思春期の患者まで、全病院を対象に活動しています。

しかし、そのような医療を主治医一人で行う事は困難です。そのため、一人のお子さんには、複数の医師が関わるチーム制で対応します。チーム内の連携をしっかりと構築することで、緊急時の対応や多角的な視点での診療が可能となり、医療の質の向上につながります。

② 教育、研究

  1. 小児科レジデントを含む若手医師への教育、協働
  2. 臨床研究の推進
  3. 国内外の学会への参加と英文誌への投稿

経験した貴重な症例を通して小児科レジデントを教育します。また、臨床研究を小児科レジデントと共に行い、学会で発表し、論文を書きます。できれば英語で論文を書き、国際学会において英語で発表することを推奨しています。当センターは、そのためのサポートも整っています。リサーチマインドを持つことで、患者さん一人一人をしっかりと診ることができますし、成果を還元することもできます。

③ 情報発信

  1. 総合診療の視覚化、役割の明確化と、評価するアウトカム指標の開発
  2. 地域連携、他の小児病院との連携の推進
  3. 医療以外の福祉、教育分野との連携

子どもにとっての最善の医療を求めるため、他の病院やクリニック、院内の他の診療科の先生方にも積極的に診療に参加して頂くようにしています。成人期の患者さんに対しても、どこで診療するのが最善なのかを考え、成人移行支援を行っています。自分たちの都合や思いで診療を継続したり、無理な転院を試みたりするのではなく、患者と家族を中心にした医療を心がけています。その結果、私たち以外での診療の方が最善であるという結論が出ることもあります。その場合は、きちんとご理解いただいた上で、他の診療科や施設に紹介させていただきます。
最後に、今や子どもと家族、社会の問題は、子ども虐待や貧困の問題を含め、医療に大きく陰を落としています。子ども病院の総合診療部として、医療以外の福祉、教育分野とも連携をとり、その解決に向かっていきたいと考えます。

Hyper Generalist

上記の医療を展開するために、私たちは、「Hyper Generalist(高いレベルの総合診療医)」になりたいと思っています。当センターの総合診療医に求められるものは、以下の「SAT」に代表される資質であり、私たちは、それを求めていきたいと思っています。

  • Skilled General Pediatrician:複合的な問題を抱える児に対し、専門科にコンサルトしつつ、臓器を超えて全身的に疾患を治療し、虐待などを含む各種問題や看取りの医療にも取り組んでいく「スキル」を身につける必要があります。
  • Academic General Pediatrician:アカデミックなリサーチ(研究)・マインドを持った総合診療医になりたいと思います。後述しますが、日本の小児科から発信される質の良い臨床研究が少ないと考えています。リサーチ・マインドは患者さん一人一人を真剣に診療することに繋がり、「良い医師」に繋がっていくと思います。
  • Translational General Pediatrician:トランスレーションは、本来、「翻訳」という意味ですが、ここでは「距離を縮める」という意味で使っています。研究と臨床の距離、各診療科間の距離、入院治療と在宅治療の距離、小児科と成人科の距離、そして患者さんと医療者の距離、そういった距離を、縮められる存在になりたいと思っています。

臨床研究と臨床教育

上記のHyper Generalistを目指す上で、臨床研究と臨床教育が大きな部分を担うことになります。
これは小児科だけの問題ではないのですが、我が国は基礎医学では世界をリードしていますが、臨床医学はそう言える状況ではありません。私たちは、日本の小児科から良質の臨床研究が発信されるような状況を作っていく必要があります。臨床研究とは、決して製薬会社主導の新薬の大規模な治験ばかりではありません。日常臨床の中から的確にクリニカル・クエスチョン(以下CQ)を抽出し、それに答えるために、いかに臨床研究をデザインしていくかが重要だと思います。今までの日本の研究は、細胞やマウスで行った研究を、ヒトに応用していくというベクトルでした。臨床研究のスタートラインを「患者さん」にしなければ、日本の臨床研究は行き詰まると考えています。日常的に遭遇する疾患・病態に関する良質のCQに基づいた、臨床に即還元される臨床研究、つまり、Patient-centered outcomes research(患者中心の結果をもたらす研究)を目指したいと思っています。

では、どうすれば良質のCQを得ることができるのか。それには、良質の医療を展開する必要があります。常に自分の医療に関して自問自答し、正しいかどうかを確かめ、間違っていたら修正する作業を繰り返さねばなりません。その中で解決できない疑問がCQです。先輩に言われるがままに風邪薬を処方し、抗菌薬を投与しているその姿に、良質の医療は感じられません。一生懸命に考えるには、一生懸命に患者さんに向き合う必要があります。当センターの医師には、その真摯さが備わっていると思います。

若手医師への臨床研修の要点は、その真摯さを保持できるような環境を作り、患者さんに学びながら、病態を解明すると共に、考え方そのものを若手医師に伝えることだと思います。良質の臨床研修ができれば、そこに常に真摯に考える良質の医療が生まれます。その中から生まれたCQは、良質の臨床研究に結びつきます。それを世界に発信したいと思っています。

その臨床研究を行うにあたって、「診療情報」を使用します。診療情報は、診療により記録された情報や検査結果などを指し、治療のために使用することが原則で、個人情報として厳密に保護する必要があります。これを臨床研究や医療者教育、または診療の質の評価や医学啓蒙活動のために用いることがあり、それを診療情報の二次利用といいます。私たちは、子どもさんやご家族のプライバシーに十分に配慮し、診療情報の二次利用を行っています。二次利用を行う主な診療情報は、診療録(カルテ)、画像検査(レントゲン写真・CT・MRI・超音波検査・内視鏡検査など)、検体検査(血液検査、尿検査、培養検査など)などです。二次利用は上記の目的のみに限定し、患者個人が特定できないように非個人情報化します。

より良い日本の小児医療をめざして

今まで述べましたように、私たちは日々、学びながら成長している過程にあります。また、とても大変な症例も数多く関わらせていただいています。それでも、若手の医師たちが一生懸命頑張っている、とても生き生きとした部署でもあります。
当センターの総合診療部は健康な子どもを含むあらゆる子どもを総合的に診療するための部署であり、一般病院小児科と連携しつつ、より良質で高度な医療を提供する場所でなければなりません。それは軽症の患児は診ないという意味ではなく、どのような子どもに対しても、前述のような真摯で質の良い医療を提供し、患者さんと共に考えながら診療にあたるということです。

国立成育医療研究センターの総合診療部が良質の小児医療を提供し続けることが、最終的には日本全体の小児医療をより良いものにすることを信じて、日々の診療にあたっていきたいと思っています。

医療従事者の方へ

小児科レジデントの募集は教育研修部のページをご参照ください。
総合診療部のスタッフも増やしたいと考えております。総合診療科、救急診療科ともに、就職の希望がございましたら、まず、御一報いただければと思います。
総合診療部でなるべく長く一緒に仕事をさせていただきたいところですが、ここで学んだ後に総合診療を極めるために在宅医療機関や市中病院に就職されても良いし、根底から仕組みを変えるために行政に進出しても良いと思います。連携大学院制度を利用して希望する大学院を受験しても良いと思いますし、基礎系、社会医学系に興味があれば、国外へ留学しても良いし、日本のトップリーダーである当センターの研究所での研究に従事しても良いと思います。
また、子育てのためにワークシェアリングを選択することもあると思います。それぞれの目標と人生にあった選択が可能ですし、そのすべてを、総合診療部として応援していきたいと考えています。

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