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神経芽腫 Q&A

「神経芽腫」についての一般的な内容と、保護者のみなさまからいただくことの多い質問について説明したものです。あくまでも病気についての一般的な内容ですので、ご不明な点については、遠慮なく担当医に質問をしてください。

神経芽腫とはどのような病気ですか?

神経芽腫は「がん」の一種です。がん細胞とは、正常な細胞であったものが、遺伝子の異常などが細胞に起こることによって「正常な機能を持たないまま」「過剰に増殖するようになってしまう」細胞です。がん細胞ができた臓器によって「胃がん」「肺がん」などになり、神経の細胞ががん化した病気が「神経芽腫」です。
神経芽腫はかたまりを作って大きくなる固形腫瘍のひとつで、小児期にできる固形腫瘍の中では脳腫瘍についで多いものです。神経芽腫のほとんどは小児期に発症しますが、日本では1年間におよそ100~200人のお子さんが発症しているとされています。

神経芽腫になるとどのような症状がでますか?

神経芽腫の細胞は、腎臓の上にある「副腎」という臓器にできることが多いので、お腹がはってくることがあります。もしくは、胸部や腹部の背骨のすぐ前にある「交感神経幹」という場所にできることもあり、近くにある脊髄を圧迫するために、足などの麻痺がでることもあります。
神経芽腫は体中のいろいろな場所に転移するため、さまざまな症状がでることがあります。リンパ腫や皮膚に転移することが多いため、首、わきの下、足の付け根などのリンパ節が大きくなったり、皮膚にしこりができたりすることでみつかることもあります。胸部や腹部に神経芽腫の細胞があると、水がたまってくることもあります(胸水や腹水)。骨にもしばしば転移するため、骨が痛くなるほか、骨の周りにかたまりを作って張れることがありあす。骨髄(骨の中にある血液をつくる場所)に入り込むと、血液を作る力が抑えられてしまい、正常な血液の細胞(白血球・赤血球・血小板)が減ってしまいます。
それぞれの症状の程度は個人差がありますので、すべての方に同じ症状がでるわけではありませんが、神経芽腫の細胞は自然になくなることはありませんので、治療をしないとこれらの症状が進行し、命に関わる状態になってしまいます。

神経芽腫の診断にはどのような検査を行いますか?

神経芽腫の細胞はカテコラミンという物質を作ることが多いため、その結果、尿検査でバニリルマンデル酸(VMA)、ホモバニリン酸(HVA)という物質の濃度が高くなることが診断の参考になります。また、血液の中のNSEという値が高くなることも多いです。
神経芽腫の治療にあたり、まず神経芽腫の細胞を一部採取します(生検:せいけん)。採取した細胞は、病理医が顕微鏡でみることで「神経芽腫であること」を確定するのと同時に、遺伝子検査などにより、腫瘍細胞の性質をより細かく把握し、治療方針の決定に役立てます。「MYCN遺伝子とはなんですか?」もお読みください。
また、神経芽腫の治療を決定するために、「病期」という考え方が必要です。神経芽腫細胞の体への広がりの程度が「病期」であり、病期によって最適な治療が異なるため、CTやMRIなどをつかって腫瘍の局所の状況を詳しく把握するとともに、他の部位に転移があるかどうかを調べます。神経芽腫は骨髄の中にも転移することがあるため、骨髄検査も行います。
また、MIBGシンチや骨シンチという検査でも転移の状況を検査します。MIBGシンチは、MIBGという薬剤を点滴からいれることで、神経芽腫の細胞を検出できるようにして画像を撮影する検査です。骨シンチは、骨が壊れているところを検出できるような薬剤を点滴からいれることで、骨への転移を検出します。
神経芽腫の病期はおおまかには以下のように分類されます。

  • 病期1:腫瘍が1か所のみであり、手術で全部切除できる。
  • 病期2:腫瘍があるのは1か所のみ、もしくは近くのリンパ節だけであるが、手術で全部切除するのが難しい。
  • 病期3:腫瘍があるのは1か所のみ、もしくは近くのリンパ節だけであるが、体の反対側まで腫瘍が存在している。
  • 病期4:腫瘍が離れた場所に転移している。
  • 病期4S:1歳未満で、腫瘍の転移は皮膚・肝臓・骨髄のみである。

これはおおよその記載なので、お子さんの神経芽腫がどの病期にあてはまるのかについては担当医師にご確認ください。
神経芽腫は発症する年齢によっても必要な治療の内容が違うことが知られていますので、実際には、年齢や病理検査の結果、腫瘍細胞の遺伝子検査の結果、病期などを組み合わせて治療法が決定されます。

MYCN遺伝子とはなんですか?

正常な細胞では、遺伝子はひとつの細胞あたり2個です(ひとつは父親由来、ひとつは母親由来です)。ところが、神経芽腫の細胞ではMYCNという遺伝子が数個~数十個、場合によっては100個以上に増えていること(増幅:ぞうふく)があります。MYCNが増幅している神経芽腫は、増幅していない神経芽腫に比べて強い治療が必要なことが知られています。ですので、治療の内容を決定するために、神経芽腫の細胞を採取してMYCN遺伝子の数を検査することが一般的です。

神経芽腫にはどのような治療が行われますか?

神経芽腫は抗がん剤が効くことが期待できることが多いので、抗がん剤による治療(化学療法)が治療の中心となります。ですが、化学療法のみで治すことは難しく、手術と放射線療法を併用します。実際の治療にあたっては、年齢と病期、病理分類(生検した細胞の顕微鏡での分類)、MYCN遺伝子増幅の有無、などを総合して、必要な治療の強度をおおまかに3段階(低リスク、中間リスク、高リスク)にわけて治療の内容をきめます。
低リスク群(おもに病期1や2、ただしMYCN増幅なし)の神経芽腫は手術で切除することが可能であれば、手術のみでも治癒する可能性がありますので、検査目的の一部の切除(生検)にとどめずに最初から腫瘍を切除することを目指して手術を行います。病期1や2にも関わらず、腫瘍の周囲の血管などのために、切除に危険が伴う場合には、比較的強度の弱い化学療法をまず行い、腫瘍を縮小させてから手術を行います。
中間リスク群(おもに病期3や乳児の病期4、ただしMYCN増幅なし)には、中等度の強度の化学療法が行われます。化学療法で腫瘍を小さくした後で手術を行います。腫瘍が縮小したにもかかわらず、血管などの近くにあるなどの理由で腫瘍がとりきれない場合などには、できる限り腫瘍を切除した後に放射線照射を行うことがあります。
高リスク群(おもに1歳半以上の病期4、もしくはMYCN増幅あり)には強力な化学療法を行います。さらに、造血幹細胞移植を併用した大量化学療法を行います(「大量化学療法とはなんですか?」もお読みください)。これらの化学療法で腫瘍を小さくした後で手術を行い、その後に放射線照射を行います。
神経芽腫の化学療法では、複数の抗がん剤を組み合わせて治療を行います。1回の治療は2~5日ぐらいの期間からなります(これを「1コース」や「1サイクル」と呼びます)。1コースの治療を行うと、「治療の副作用にはどのようなものがありますか?」に詳しく書かれているとおり、骨髄抑制などの副作用がおこりますので、回復を待ってから次のコースを行います。中間リスク群や高リスク群の神経芽腫に対しては、5~8コースの治療を行うことが一般的です。
病期4Sはやや特殊な病型で、化学療法を行わなくても自然に改善することがあります。神経芽腫細胞によって呼吸が障害されるなど具合が悪い場合には、比較的弱い強度の化学療法が行われますが、治療開始の時期を乗り越えさえすれば治癒率は高いことが知られています。

臨床試験とはなんですか?

神経芽腫の治療をよりよいものにするために、国内外で「臨床試験」という形で治療が行われてきています。再発した神経芽腫などの一部の特別な場合を除き、「試験」といっても効果が不確実な薬剤を試しに使うのではありません。神経芽腫の臨床試験では、これまでに行われた国内外の治療を振り返り、さらに改善させようとした治療計画で治療を行います。ただ、その改善させたつもりの治療計画がほんとうに安全で効果があるのか、確認しながら行っていきますので「臨床試験」という言葉が使われます。日本を含めた世界各国で臨床試験が行われ、その結果を基にして新たな臨床試験を行う、ということを繰り返して神経芽腫の治療は進歩してきました。
臨床試験には参加するための基準があります。現在行われている臨床試験に参加が可能であれば、担当の医師から臨床試験の治療計画の内容について説明を受けてください。担当の医師と相談しながら、臨床試験に参加して治療を行うか、もしくは以前まで行われていた治療で行うか、強制されることなく決めることができます。臨床試験に参加して治療を受けた場合でも、治療開始後の状況によっていつでも試験治療を受けるのをやめることができます。ただ、臨床試験に参加せずに治療を受けたのに、途中から臨床試験に参加することはできません。

治療の期間はどれくらいですか?

リスク群や治療の内容によって異なりますが、低リスク群の場合、手術で切除できれば治療は終了です。中間リスク群の場合、入院が必要な治療が5-8か月です。高リスク群の場合、大量化学療法から手術まで含めると、9-12か月の入院になります。この期間はずっと入院しているのではなく、治療と治療のあいまに外泊にいくことや、一時的に退院して自宅で過ごすことができます。学校に通っていたお子さんは、ほとんどの病院では院内にある「院内学級」に転校していただいて、治療中も学習の遅れが最小限になるようにします。入院治療が終わったら、それまで通学していた学校に復学することや、幼稚園や保育園などに通園することが可能です。

治療の副作用にはどのようなものがありますか?

神経芽腫の治療には抗がん剤が用いられます。抗がん剤はおおまかには「増える細胞を倒す薬剤」なので、神経芽腫の細胞に効果がありますが、正常な細胞で増える速度が速い細胞に影響が出ます。
増える速度が速い細胞の代表が正常な血液の細胞です。そのため、抗がん剤を使うと、血液を作る力が一時的に抑制されます(骨髄抑制)。ただし、抗がん剤の副作用は一時的なので、ある程度の時間が経過すれば血液を作る力は回復します。その回復を待つ間、赤血球や血小板の減少に対しては輸血を行って対応します。輸血については病院ごとに別の説明文書がありますが、アレルギーや感染症などの危険性があります。日本では、輸血に対する検査は高い精度で行われているため、輸血を解して感染症にかかる確率はきわめて低いですが、ないわけではありません。そのため、輸血の回数は最小限にとどめるようにします。
また、白血球の減少は輸血で補うことはできませんので、白血球の回復を促す薬を使いながら待つことになります。白血球の減少している間は免疫力が低下しているため、外泊に出ることはできません。熱が出た場合はたとえ元気であっても重篤な感染症になってしまう可能性があるため、抗生物質を早めに使うことになります。また、免疫力の低下している状態が長く続くと「ニューモシスチス肺炎(カリニ肺炎)」という肺炎になってしまうことがあるため、予防するために「ST合剤(バクタ、ダイフェン)」という薬を週に3日飲むことが必要です。
白血球の減少中に感染症を発症すると、生命に危険が及ぶような危険な状態になることもあります。また、抗がん剤の影響が臓器におよび、重篤な合併症をきたすこともあります。中間リスクの神経芽腫の長期生存率は約80-90%で、高リスク神経芽腫の長期生存率は50-60%ですが、残りの10-40%のうち、神経芽腫の再発に関係するものがほとんどを占めます。ですが、化学療法の合併症による死亡率も2-10%あります。しかし、これらの合併症を避けるあまり治療を弱めてしまうと、神経芽腫の治る確率が下がってしまいます。最終的に元気な状態で治る確率を高くするためには、一定の治療の強度が必要です。
髪の毛の細胞も増える速度が速いため、治療中は髪の毛が抜けてしまいます。抗がん剤が投与されると2週間後ぐらいから抜け始め、入院治療の間は髪の毛がほとんどない状態になります。入院治療が終われば髪の毛は生えてきますが、最初のころは少しくりくりした髪の毛のことが多いです。粘膜の細胞も増える速度が速いので、治療によって口内炎が起こったり、下痢をしたりすることもあります。また、抗がん剤は吐き気も引き起こします。これらに対しては、痛み止めや吐き気止めを使って手助けをします。
また、抗がん剤が体に入ることで、腎臓や肝臓に負担がかかることがあります。ほとんどの影響は一時的ですが、稀に機能の低下が残ることがあります。
そのほか、それぞれの抗がん剤に特有な副作用があります。例えば、「アドリアシン」は多く使うことによって心臓に機能障害をきたすことがあります。「オンコビン」は便秘や手足のしびれなどの症状を起こすことがあります。「エンドキサン」や「イホマイド」は膀胱炎をおこすことがあるため、点滴を多くして尿が薄くなるようにします。「シスプラチン」や「カルボプラチン」は聴力に影響を及ぼすことがあります。いずれも治療には重要な薬剤なので、それぞれに対策をして負担を最小限にすることをめざしつつ、治る確率が高くなるように治療を行います。

大量化学療法とはなんですか?

高リスク神経芽腫の治療成績を向上させるために、強力な化学療法の後に「大量化学療法」を行うことが有効なことが分かっています。再発率を下げるためにさらに強力な化学療法を行うと、「治療の副作用にはどのようなものがありますか?」で書かれているとおり、骨髄抑制が問題となります。強い骨髄抑制により白血球の減少期間が長くなると、感染症などの合併症を乗り越えられないことが心配されます。そこで、血液細胞を作るおおもとである「造血幹細胞」を前もって用意しておいて、大量に抗がん剤を投与した後に、造血幹細胞を点滴から体に戻すことで血液細胞を回復させる、という治療が「大量化学療法」です。
大量化学療法の後に造血幹細胞を体に入れる、というのは血液の病気などに行う骨髄移植などの同じ手順ですので、「自分のもの」という意味の「自家(じか)」という言葉をつけて「自家造血幹細胞移植」と呼ばれることがありますが、治療の主な目的は、造血幹細胞移植を行うことではなく、「大量の抗がん剤治療の副作用である血液細胞へのダメージを、造血幹細胞を使うことで乗り越えさせる」治療です。逆に言うと、造血幹細胞で手助けする(造血幹細胞救済)ことで、通常ではできないような強さの化学療法をする治療、ということです。
前もって造血幹細胞を用意する方法として、代表的なものは「末梢血幹細胞採取」です。化学療法後に骨髄抑制が起きることは前にも述べましたが、回復する頃にあわせてG-CSFという薬剤を投与すると、血液の中に造血幹細胞がみられるようになることがわかっています。そのタイミングに合わせて、血液を点滴などから採取して機械の中を循環させ、造血幹細胞のみを集めることができます(成分献血に似た手順です)。
末梢血幹細胞採取を行っても充分な量が集められないことがありますので、その場合は別の方法(骨髄血採取など)を行うことがあります。

治療中にはどのような検査をしますか?

治療の効果を判定するために、定期的にCTやMRI、MIBGシンチなどの画像検査を行います。骨髄にも病気の細胞があった場合には、骨髄の検査も行います。
また、輸血の回数を最小限にするために、また、肝臓や腎臓などにダメージが起き始めていないかを確認するために、治療中は週に2-3回の頻度で採血を行います。治療薬を投与するためには点滴も必要なので、通常は中心静脈カテーテルをいれ、そこから点滴や採血を行います。
ヘモグロビン値が7ぐらいを目安に赤血球輸血を、血小板数1-2万ぐらいを目安に血小板輸血を行います。ただし、治療の内容や曜日の関係で、この数字よりも高くても輸血が必要なことがあります。また、中心静脈カテーテルを挿入するなど、出血の可能性がある処置をする場合には、前もって血小板の値を高めにしておきます。

中心静脈カテーテルとはなんですか?

神経芽腫の治療に使う薬のほとんどは点滴で投与します。一般的に行うような手などに留置した点滴は、大抵の場合は3-5日ぐらいで薬が入らなくなり、そのつど点滴の針を刺しかえることが必要になります。また、「10.治療中にはどのような検査をしますか?」でもふれたように、入院中は頻繁に採血することが必要になります。
これらの採血や点滴留置によるお子さんの負担を減らすために、中心静脈カテーテル(CVカテーテルともいいます)を使って治療するのが一般的です。中心静脈カテーテルは、首の血管や鎖骨付近の血管を用いて管の先端を体の中心近くの血管まで届かせるものです。体の外には鎖骨の下あたりから出てくる形になります。中心静脈カテーテルは、麻酔をかけて手術室で挿入します。
治療に関連した薬はごく一部のものを除いて中心静脈カテーテルから投与することができますし、採血もカテーテルから行いますので、体に針をさす回数は格段に減らすことができます。また、神経芽腫の治療に使う薬の中には、皮下などに漏れると炎症を起こす薬剤もありますが、中心静脈カテーテルからであれば安全に投与することができます。予定された治療が終了した段階で、中心静脈カテーテルを抜きます。
その一方で、体に異物をいれておくことになりますので、中心静脈カテーテルにばい菌がついてしまい熱がでることがあります。その場合は原則としてカテーテルを抜く必要があります。また、抜けにくいように工夫がなされていますが、使っているうちに自然に抜けてしまうこともあります。
また、カテーテルの先端は血液の中にありますので、治療の合間などで使わない時も、固まらないようにするためにヘパリンという薬を薄めたものを定期的に通す必要があります(外泊などの際にはご自宅で保護者の方にお願いすることになります)。ただ、そのような対策をとってもカテーテルが詰まってしまう場合があります。詰まったカテーテルはやはり抜く必要があります。

治療中、特に気を付ける時期はありますか?

診断が疑われたときには、神経芽腫の細胞が体中に広がっているために命に関わる状態になっていることが珍しくありません。ですので、治療の最初の時期は集中治療室での管理などの慎重な対応が必要な場合があります。
また、診断された段階では神経芽腫細胞が体にたくさんあるため、治療によって神経芽腫細胞が一気に壊れ、その残骸が体内にあふれてしまい、腎臓の処理能力を超えてしまうことがあります。これを予防するために、治療の最初の1-2週間は点滴を多めにして、残骸を薄める対策をとります。また、残骸の中で「尿酸」という物質は腎臓に対して悪影響がありますので、尿酸を分解する薬(ラスリテックまたはザイロリック)を使うことがあります。
治療が進んだ後も、抗がん剤によって白血球が少なくなっている期間は、感染症が起こると重症になりやすい時期なので、発熱など感染症を疑わせる症状が見られた場合には速やかに抗生物質の投与を開始する必要があります。どんなに気を使っても、空気中にいるばい菌や自分自身の体にいるばい菌によって感染症を起こすことはありますが、感染症を起こす確率をなるべく減らすために、体調が悪い方の面会は控える、面会前に手洗いをする、などについては普段から気をつけましょう。
また、ご家族で、水痘(みずぼうそう)やおたふくかぜなどの「予防接種をしていない」かつ「かかったこともない」のであれば、予防接種をすることをお願いします。インフルエンザの予防接種もぜひお勧めします。

神経芽腫は治るのですか?

化学療法と手術を行い、神経芽腫の細胞が画像では検出できない状態になっても、検査では分からないわずかな量で神経芽腫の細胞が残っているかどうかは判断できませんので、厳密に「治った」かどうかを確認することはできません。神経芽腫細胞の遺伝子解析の結果や病期、治療を開始した後の経過など様々な要素を総合し、最も治癒率が高いと推定される薬剤の量と期間で治療を行います。
神経芽腫細胞が残っていた場合、治療終了後に増殖して症状が出現したり、検査で検出されたりすることになり、「再発」という状態になります。再発の多くは、治療が終了してから7年以内にみられます。すなわち、治療が終了して7年たっても特に症状がなく、血液検査・画像検査にも異常がなければ、治った可能性は高いと考えます。
ただし、完全に再発の可能性がなくなるのは何年後か、ということはまだ分かっていません。そのため、厳密な意味で「治癒率」という言葉を使うことはできずに、「長期生存率」という言葉で表現します。実際には、治療終了後7年が経過して再発がない場合、それ以降に再発することは例外的ですので、「治療終了から7年後の再発なしの生存率」=「治癒率」と考えられています。

神経芽腫はなぜ発症するのでしょうか?遺伝や環境は関連しますか?

小児の神経芽腫の発症は、まれな例外を除いて、遺伝や生活の環境などの特定の原因による影響は少ない、と考えられています。
細胞は日々分裂していますが、増える量は厳密に制御されています。分裂して増える過程で、DNAという細胞の設計図をコピーして使いますが、そのコピーはとても正確ですが、何万回・何十万回とコピーすると間違いが起こることがあります。間違いのある設計図で作られた細胞はほとんど場合は排除されますが、まれに排除されずに、しかも過剰に増えるような「間違い細胞」ができてしまうことがあり、これががん細胞です。
たばこと肺がんの関係はよく知られていますが、これは喫煙がこの「間違い」が起こる確率を増やすためと考えられています。しかし、小児の神経芽腫の場合は、特殊な場合を除いて発症の誘因となるようなものはなく、偶然の確率で起こる病気だとされています。

もっと早期に診断したほうがよかったのですか?

神経芽腫の治癒率に一番影響するのは、病気の細胞自体の性質です。また、治療が不十分な場合も治癒率が下がります。つまり、治癒率をあげるためには、しっかりと神経芽腫細胞の特徴をつかみ、それにあった治療を十分にできることが最も重要です。神経芽腫のお子さんの経過を振り返ってみると、診断されるよりも以前から症状があったことがほとんどです。ただ、神経芽腫の最初の症状は、だるい・なんとなく元気がない、など神経芽腫に特有のものではない症状であることが多く、実際のそのような症状のお子さんのほとんどは神経芽腫ではなく、一般の感冒(いわゆる"かぜ")などです。症状が出始めた段階で検査を行えば診断できた可能性はありますが、神経芽腫を早期に診断したとしても、最終的になおる確率にはほとんど影響しません。

治療の終了後に残るような影響はありますか?

小児期に抗がん剤を使った治療を行いますが、低リスク群の一部(手術が最初からできなかった場合)や中間リスク群では、重い合併症を併発して影響が残ってしまった場合を行った場合を除き、身体的・知的な発達に大きな影響はないと考えられます。しかし、治療に使う薬によって、まれに成長障害・腎機能障害・その他の臓器の障害がおこることがあります。これらの問題は成長してはじめて明らかになる場合もあるため、少なくとも20歳までは定期的に外来に通院していただくことをお願いしています。
高リスク群では強力な治療が行われるため、腎機能障害や聴力障害などが残ることがあります。そのため、治療中および治療終了後に定期的に検査を行います。また、大量化学療法で用いられることが多いブスルフェックスという薬剤の影響で、性腺(男児なら精巣、女児なら卵巣)機能障害がしばしばおこります。
また、がんの治療を受けた方は、将来的に「がん」を発症する確率が少し上がることが分かっており(抗がん剤のみの治療の場合は約1-3%と推定されています)、「二次がん」と言います。しかし、現在、日本人の死因の中でがんはもっとも多く、抗がん剤治療を受けていない人でも約半数の方ががんを経験します。そのため、もし二次がんを発症した場合でも、抗がん剤治療と関係があるのか、つまり治療を受けなかったらその「がん」を発症しなかったかどうかは分かりません。二次がんは重要な合併症ですので、関連が強いと疑われる薬剤や放射線照射などは可能な限り少なくするような治療を行いますが、「8. 治療の副作用にはどのようなものがありますか?」でも述べたように、過剰に治療を弱めることは、神経芽腫の治る確率を下げてしまいます。そのため、神経芽腫のお子さんが元気に成長して一生を過ごすことができる確率が最も高いと考えられる治療を行いたいと考えています。

退院後に気を付けることはありますか?

「神経芽腫は治るのですか?」でも書かれている通り、再発の可能性はどの時期でも「絶対にない」と言い切ることはできません。ですが、生活の中の一般的なできごとが再発する・しないに影響することはありません。疲れたら再発しやすくなる、などということはありませんので、体力面で問題がない範囲で発症前と同じ日常生活に戻って構いません。ただし、入院によって筋力が落ちていることが多いので、通学を再開する最初の時期は短い時間のみからはじめ、徐々に時間を増やすことをお勧めします。

再発はどのような症状でわかることが多いですか?

治療が終わってすぐのころは1-2カ月に1回の血液検査を行い、定期的に画像検査を行いますので、症状が出る前に検査値の異常で見つかることが多いです。
症状が出るとしたら、体のどこかで神経芽腫の細胞が増えてかたまりをつくることが考えられます。体のどこかにしこりができて見つかることもありますし、骨や骨髄の中で増えると痛みがでます。また、神経芽腫細胞は髄液の中に再発することもあります。その場合は頭が痛い、吐き気がする、ものが二重に見える、などの症状が現れます。
ただし、「もっと早期に診断したほうがよかったのですか?」にもある通り、神経芽腫の治療において早期に診断することは治療の最終的な結果には影響しません。これは再発時も同じです。ですので、上記のような症状がみられた時も、緊急で受診していただく必要はありません。
神経芽腫に関係する症状であれば改善することはありませんので、しばらくは神経芽腫と関係ないものとして対処をし、もし症状がよくなったら再発ではないと判断してください。改善が見られない場合や、症状がひどい場合は、担当医にご相談ください。

治療に関して公費負担の制度などはありますか?

神経芽腫は「小児慢性特定疾病」の対象疾患です。市区町村の窓口などに申請をしていただければ、申請以降に神経芽腫に関連した治療の費用は公費の補助が受けられます。ただし、神経芽腫と関係ない病気(虫歯など)・けがなどは通常の保険診療で請求が発生します。また、小さなお子さんの場合のミルク代など、もともと保険診療に含まれないものについては負担額が発生します。

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