国立研究開発法人 国立成育医療研究センター National Center for Child Health and Development

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マススクリーニング研究室

研究室紹介

新生児マススクリーニングは、生後早期に治療を始めることで、生まれ持った病気による障害から子供たちを守る、母子保健事業のひとつです。わが国では1977年に開始され、長らく先天代謝異常症4疾患(高フェニルアラニン血症・メープルシロップ尿症・ホモシスチン尿症1型・ガラクトース血症)と内分泌2疾患(先天性甲状腺機能低下症・先天性副腎皮質過形成症)を対象に続けられてきましたが、タンデム質量分析法(通称「タンデムマス」)という新しい検査技術の導入によって、2013年からは「尿素サイクル異常症」「有機酸代謝異常症」「脂肪酸代謝異常症」が追加され、総数25疾患(うち7疾患は「二次対象疾患」)に拡大されました。
多彩な対象疾患について、早期発見によって真に救われる子供たちを確実に見つけ出しながら、過剰診断や偽陽性の多発を防ぐためには、全国の各自治体単位で実施されているマススクリーニング検査を、均質かつ高い水準に保つための「精度管理」や、偽陽性による再採血の負担を低減する「二次検査」の整備、精密化学分析・酵素活性測定・遺伝子解析などによる「確定診断」提供体制の確保など、事業を維持する様々な支援が必要です。
当研究室は、「タンデムマス」導入を機に増大した、このような要請を背景として、2014年に新設されました。2016年7月現在、総勢7名の小さな研究室ですが、下掲「研究内容」を始めとする諸課題に順次取り組んでいます。

研究内容

  1. 新生児マススクリーニング検査の外部精度管理
    各自治体の指定検査機関と協力して、産科施設で採取された新生児濾紙血検体の受付から検査結果の報告までの、一連のシステム全体を評価する「技能試験 (Proficiency Test; PT)」および、分析精度そのものを評価する「精度試験 (Quality Control; QC)」を実施しています。試験の内容や、結果をマススクリーニングの精度向上につなげる方法など、外部精度管理のあり方そのものを含めて、よりよいものにしていくことを目指しています。

  2. マススクリーニング陽性検体の二次検査
    新生児マススクリーニングでは、初回採血での陽性検体は再採血の依頼がなされ、再び陽性となった場合に精査医療機関への受診が指示される、というのが通常の手順となっています。この際、再採血例の多くは正常化して精査に至りませんが、その結果がわかるまでの期間、両親・家族は大きな不安を背負うことになります。
    一方、対象疾患の一部では、再採血によって真の罹患者が「すり抜ける」可能性があり、実際に症状の発症に至った事例が判明しています。
    このような課題の改善・克服に役立つと考えられている方法のひとつが、初回濾紙血検体を用いて行う「二次検査」です。対象疾患の診断上、スクリーニング検査での指標よりも特異性の高い異常物質を測定することで、赤ちゃんと両親・家族の負担を増やすことなく、より正確な評価を加えることが可能となります。
    そんな有用な手段である二次検査の開発が、各種の対象疾患について進められていますが、新生児マススクリーニング事業としても、健康保険診療としても、費用の手当がなされることは容易ではないと考えられます。実際に手がけている大学研究室など専門研究機関は、長期にわたる継続性の面で難題を抱えています。また、一部の自治体の指定検査機関では研究的に実施されていますが、域外出生例への対応は難しいのが実情です。
    これらの困難を乗り越えて、全国どこで見つかった陽性例に対しても「二次検査」を継続的に提供することは、今後当研究室の重要な役割になると考え、検査法の整備・拡充に取り組んでいく方針です。

  3. マススクリーニング陽性例の確定診断
    新生児マススクリーニングで要精査となった子供と両親・家族にとって、診断に至るまでの「宙ぶらりん」な期間は過酷なものであり、真の罹患者であれ偽陽性であれ、速やかに結論をはっきりさせることが極めて重要です。

    • 化学診断
      先天代謝異常症の場合、確定検査の基本は特異的な異常代謝産物の測定で、具体的には「血漿・尿中アミノ酸分析」「尿中有機酸分析」「濾紙血・血清アシルカルニチン分析」が主に必要となります。
      これらの分析で得られるのは、多種類の物質の複雑な増減パターンに関するデータであり、その解釈には高度な専門的知識と経験が必要とされます。また、現在はいずれも健康保険診療項目として収載されていますが、有機酸分析・アシルカルニチン分析については、運用面での取り扱いに曖昧さがあり、実際には研究費などで賄われている場合が少なくありません。
      このように、診断のための第一歩となる諸検査がすでに、専門性や費用など一般診療へ落とし込む上での課題を抱えた状況にあります。当研究室としては、代謝物分析に関する知識の普及や、保険診療上の位置付けの明確化に向けた情報発信などの形で、状況の改善に貢献したいと考えています。

    • 酵素診断
      先天代謝異常症の大半は「酵素欠損症」なので、酵素の働き(=活性)が低下していることを示すのが、最も直接的な診断所見であると言えます。基本的には血液中の白血球や、皮膚の細胞に含まれる酵素の活性を測定しますが、現行の新生児マススクリーニング対象疾患の中には、原因の酵素が肝臓の細胞だけにしか含まれないとか、酵素反応を受ける物質自体が入手困難であるなど、実際には酵素活性を測ることができないものも少なくありません。このような制約はありますが、酵素活性測定には「活性低下の程度によって重症度を評価できる」「偽陽性例をはっきりと除外診断できる」といった強みがあり、測定可能な疾患の種類を増やすことは、新生児マススクリーニングの実践上、大きなメリットをもたらします。
      現室長(但馬)は、前任地の広島大学小児科で、計9疾患の酵素診断を手がけてきており、現職就任以降も引き続き全国から診断依頼を受け付けています。現在の新生児マススクリーニング対象疾患の酵素診断は、費用が手当てされる見通しが立っておらず、それゆえ当研究室が提供体制を整備拡充し、長く継続する責任を担う必要があると考えています。

    • 遺伝子診断
      酵素診断とは対照的に、原因となる遺伝子の塩基配列を解析する方法は、疾患を問わず共通の手技で実施可能な、汎用性の高い検査です。新生児マススクリーニング対象疾患の遺伝子解析は、健康保険診療項目に収載されていますが、必要経費を保険診療報酬の範囲内に収めることはまだ難しく、実際には疾患ごとの専門的研究者に依存する状況が続いています。
      今後、遺伝子解析のコストダウンが進むことによって、新生児マススクリーニングの確定診断における有用性は高まっていくことが期待されます。但し、マススクリーニングで見つかるのは症状のない新生児であることから、発症した患者での報告がない塩基配列の変化が同定されると、病因としての意義付けが困難な場合もあります。また、解析方法上、検出困難な配列変化が潜んでいて、結論が得られないことも稀ではありません。

      当研究室では、このようなタイプの異なる検査方法を各対象疾患について取り揃え、複数の手段を組み合わせて、迅速な確定/除外診断と、重症度に関する精度の高い評価を提供できるよう、取り組んでいく方針です。

  4. 新しい対象疾患のマススクリーニング
    近年、先天代謝異常の領域でも、様々な新規治療法が登場しています。その代表例と言える「酵素補充療法」が実用化されたライソゾーム病では、症状が進展する前に治療を開始することが望まれることから、新生児マススクリーニングの実現に向けた研究が進められています。また「重症先天性免疫不全症」では、生後1回も感染症にかからないうちに造血幹細胞移植を行うことが救命に必須であることから、特殊な遺伝子断片の量を測定するという、従来の対象疾患とは全く異なる方法による新生児マススクリーニングが、技術的には実現に近づいています。
    これらを母子保健事業へ組み込もうとする際には、費用負担を始めとする行政との関係や、精度管理の仕組みなど、従来の新生児マススクリーニングで蓄積された経験が必要とされ、役に立つものと考えられます。当研究室は、そのような対象疾患の拡大を目指す取り組みにも貢献したいと考えています。

    現行の新生児マススクリーニング検査の対象として追加したい、具体的な候補疾患もあります。そのひとつとして、当研究室では「ホモシスチン尿症3型」に注目しています。これは、新生児マススクリーニング開始当初からの対象疾患である「ホモシスチン尿症1型」と同様、血中にホモシステインが蓄積し、その二量体であるホモシスチンが尿中へ大量に排泄される疾患ですが、1型のスクリーニング指標であるメチオニンが3型では逆に低下するため、これまでマススクリーニングの対象として考えられてはいませんでした。
    2014年、ホモシステインからメチオニンの再生反応を促進する「ベタイン」が、健康保険適用の治療薬として承認されたところ、前後して新生児期に発症したホモシスチン尿症3型の診断例が相次ぎ、中枢神経病変の進行を抑制するベタインの高い有効性が報告されました。それらの報告例では、初回濾紙血のメチオニンが非常に低い値であったことが確認され、新生児マススクリーニングによってより早期に治療を開始すれば、さらに高い効果が得られる可能性が示唆されています。
    代謝物の測定によるマススクリーニングで「異常低値」を指標とするのは、一般的な「異常高値」を捉えるのに比べると、より高い精度が求められます。偽陽性の振るい落とすため、初回濾紙血中の「総ホモシステイン濃度」を測定する二次検査も備えておく必要があります。当研究室は、近い将来の目標として、ホモシスチン尿症3型の新生児マススクリーニング実現に取り組みたいと考えています。

  5. マススクリーニング陽性例の情報集積
    新生児マススクリーニングは、公費を投入して実施されている母子保健事業であり、その効果・有用性は全国的な成績集計によって検証されることが望まれます。しかしながら、行政的な枠組みとしては各自治体の事業となっており、そこへ個人情報保護法による制約が加わって、各地の実態を俯瞰できないのが現状です。
    対象疾患を含む患者データベースとしては、小児慢性特定疾病事業の登録情報の他、近年では日本先天代謝異常学会による患者登録制度 “JaSMIn” “MC-Bank”などが立ち上げられていますが、タンデムマスという新しい方法が導入されたばかりの現在、「新生児マススクリーニングに特化した」しかも「悉皆性のある」データベースの構築は、喫緊の課題となっています。
    当研究室は、「ナショナル・センターに設置された、新生児マススクリーニングの専門部門」という立場を生かして、この難しい課題を解決するために、各方面の関係者と連携を深めながら、力を尽くしていく所存です。

○研究部問い合わせ窓口

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スタッフ

マススクリーニング研究室

室員

  • 中島 英規(研究員)
  • 志村 明子(臨床検査技師)
  • 相崎 潤子(臨床検査技師)
  • 前田 堂子(研究補助員)
  • 後藤 温子(研究補助員)
  • 小澤 仁子(共同研究員)

業績

2016年

  1. Hara K, Tajima G, Okada S, Tsumura M, Kagawa R, Shirao K, Ohno Y, Yasunaga S, Ohtsubo M, Hata I, Sakura N, Shigematsu Y, Takihara Y, Kobayashi M: Significance of ACADM mutations identified from newborn screening of MCAD deficiency in Japan. Mol Genet Metab 118 (1): 9-14, 2016.