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病気の原因がわからない赤ちゃんに対するゲノム解析の有用性を確認 -全国で診断に難渋した85名の約半数で原因が判明-

日本の新生児医療は世界最高水準であることが知られていますが、それでも新生児集中治療室に入院する重症の赤ちゃんの1割程度で、病気の原因がわからないことが課題となっています。そこで、新生児科医と遺伝学研究者からなる全国チーム(代表:慶應義塾大学医学部小児科学教室の武内俊樹専任講師)は、17の高度周産期医療センターからなるネットワークを作り上げました。従来の検査法では原因を決めることができなかった85名の重症の赤ちゃんに対して、ゲノム解析という新しい方法で原因の究明を試みました。その結果、約半数(41名)が生まれつきの遺伝性疾患にかかっていることが判明しました。結果の判明したうちの約半数(20名)では、検査や治療方針の変更が行われ、このゲノム解析が新しい時代の医療技術として極めて有用であることを示しました(図1)。
本研究成果は、2022年2月3日(東部米国時間)に、小児科学分野を代表する国際誌である『The Journal of Pediatrics』のオンライン版に掲載されます。

【図1】85名の重症の赤ちゃんにゲノム解析を行ったところ、約半数が生まれつきの遺伝性疾患にかかっていることが判明した。結果の判明したうちの約半数で検査や治療方針が変更された。

研究の背景と概要

国連児童基金(UNICEF)によれば、日本の赤ちゃんの死亡率は極めて低く、特に、予定日より早く小さく生まれた赤ちゃんの医療は、世界最高水準と言われています。しかし、新生児集中治療室(注1)に入院する赤ちゃんの約1割は、それぞれが極めて患者数の少ない病気にかかっているとされ、その克服が課題になっています。一般に、患者数の少ない病気は、熟練した医師であってもその原因の特定が難しく、最終的な診断にたどり着くために、多くの検査が必要になります。しかし、赤ちゃんは体が小さいため、多くの検査を行うことができず、自ら細かい症状を訴えることもできません。さらに、体の余力が少なく、症状が悪化するスピードも速いので、救命するためには、原因を早く見つけて、最も効果的な治療を行う必要があります。
本研究では、新生児科医とゲノム研究者からなる全国チームが、8都府県にある17の高度周産期医療センターからなるネットワークを作り上げました。そして、そのネットワークに属する医療機関において、2019年4月から2021年3月までの2年間で、新生児集中治療室に入院するほど具合が悪く、熟練した新生児科医のチームをもってしても従来の検査法では原因を決めることができなかった85名の重症の赤ちゃんに対して、ゲノム解析という新しい方法で遺伝子を調べることにより、原因の究明を試みました。

研究の成果と意義

まず、赤ちゃんから1 ccほど採血し、人体の成り立ちを決めているDNAを血液から取り出しました。DNAは、30億個の塩基(四種あり、A, T, G, Cで表す)が連続したとても複雑な構造をしています。そこで、次世代シーケンサーという最新の分析機器と超高速のコンピュータを組み合わせることで、DNAの持つ30億個の「文字(A, T, G, C)」すべてを短期間で解読できるようにしました。なお、検査の必要性については、検査を行う前に、赤ちゃんの親に十分に時間をかけて説明を行いました。
本研究の結果、85名のうち、約半数(41名)で病気の原因を特定することができました。その大半は、30億個あるDNAの文字のうち、わずか1つないし2つの文字が、別の文字に書き換わったことが原因でした。

また、原因が特定できた41名のうち、約半数(20名)では、診断結果をもとに検査や治療方針が変更されました。具体的には、筋肉や皮膚の一部を切り取って調べる検査(筋生検・皮膚生検)を受けずに済んだり、効果の高い薬を使うことができたり、臓器移植によって救命できる可能性がわかったりしました。
今回の研究で実際に診断のついた中に、生まれたときから腸が詰まり、栄養を取るのが難しかった赤ちゃんがいました。体重が増えず、肝臓の機能も低下しました。さまざまな検査を行っても原因がわかりませんでした。本研究でこの赤ちゃんのDNAを調べたところ、細胞の内外に電解質を出し入れする力が弱く、腸や気道が粘り気の強い分泌液で詰まりやすくなる嚢胞性線維症(のうほうせいせんいしょう)」という稀な疾患であることが分かりました。消化を助ける薬を始めたところ、体重が増えるようになりました。
このように新生児医療において、ヒトDNAの30億個の文字を解読するという新しい医療技術が極めて有用であることがわかりました。なお、この解析法は、健常な赤ちゃんに広く行われている先天性代謝異常等検査とは全く異なるものです。

論文情報

英文タイトル:
Genome analysis in sick neonates and infants: high yield phenotypes and contribution of small copy number variations
タイトル和訳:
重症新生児・乳児に対する遺伝子解析:診断率の高い症状と微細なコピー数変化の影響
著者名:
鈴木寿人(慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター), 野崎昌俊(大阪母子医療センター新生児科副部長), 吉橋博史(東京都立小児総合医療センター臨床遺伝科部長), 今川和生(筑波大学医学医療系小児科講師), 梶川大悟(茨城こども病院新生児科医長), 山口有(群馬県立小児医療センター遺伝科部長), 山田茉未子(慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター), 森貞直哉(兵庫県立こども病院臨床遺伝科科長), 江口麻優子(都立墨東病院新生児科) ,大橋祥子(都立大塚病院新生児科医長), 二宮伸介(倉敷中央病院遺伝診療部主任部長), 瀬戸俊之(大阪市立大学医学部附属病院小児科/ゲノム診療科), _富智明(岩手医科大学医学部臨床遺伝学科講師), 飛彈麻里子(慶應義塾大学医学部小児科学教室), 豊島勝昭(神奈川県立こども医療センター周産期センター長・新生児科部長) ,近藤昌敏(東京都立小児総合医療センター副院長), 乾あやの(済生会横浜市東部病院小児肝臓消化器科部長), 小崎里華(国立成育医療研究センター遺伝診療科部長),黒澤健司(神奈川県立こども医療センター遺伝科部長), 伊藤裕司(国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター 新生児科 副周産期母性診療センター長、新生児科診療部長), 岡本伸彦(大阪母子医療センター研究所長・遺伝診療科主任部長),小崎健次郎(慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター), 武内俊樹(慶應義塾大学医学部小児科学教室)
掲載誌:
The Journal of Pediatrics
本件に関する取材連絡先

国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室

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koho@ncchd.go.jp

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