国立研究開発法人 国立成育医療研究センター National Center for Child Health and Development

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低身長妊婦は妊娠高血圧症候群のリスクが高いことを証明

日本産科婦人科学会のデータベースを使用して20万人超の妊娠データを解析


国立成育医療研究センター社会医学研究部の森崎菜穂室長、同産科の小川浩平医員らのグループは、妊婦の身長と妊娠高血圧症候群発症のリスクとの間には関連があり、身長が低いほど発症リスクが高いことを日本産科婦人科学会のデータベースを使用した解析で明らかにしました。
同研究では妊娠高血圧症候群だけではなく、胎児に重要な影響を及ぼす常位胎盤早期剥離やSmall for gestational age (週数に比して小さい児)の発症リスクとも相関関係にあることを明らかにしました。
この研究成果は2017年3月20日に権威ある産科系雑誌であるPediatric Perinatal Epidemiology誌より発表されました。

※なお、この研究は疫学的に妊婦の身長と妊娠合併症とを検討したものです。すべての低身長妊婦が合併症を発症するわけではありません。各症例がハイリスクに相当するかどうかは、専門医の指導を仰いでください。

プレスリリースのポイント

    • 日本産科婦人科学会のデータベースを使用した解析の結果、身長が低い妊婦ほど、妊娠高血圧症候群の発症頻度(図1)常位胎盤早期剥離の発症頻度(図2)そしてSmall for gestational age(SGA: 週数に比して小さい児)の発症頻度が高い(図3)という傾向が導き出されました。
    • 妊娠高血圧症候群のハイリスクを抱える妊婦には、低容量アスピリンの内服で発症が一部予防できることが知られているため、アスピリン内服を検討するなどの対策が考えられます。これらの疾患の発症は時に重篤な状態につながるため、低身長の妊婦には高次的な周産期医療を提供できる施設での出産を推奨すべきかもしれません。
    • しかし、これらの臨床的な取り組みはこれからの課題であり、今後は包括的な妊婦自身へのリスクベネフィットを考慮した議論が必要です。
    1. 妊娠高血圧症候群:妊娠中に血圧が上がる疾患で、時に早産や胎児死亡の原因となる重篤な病態
    2. 常位胎盤早期剥離:分娩前に胎盤が剥離する病態で、緊急帝王切開などで直ちに分娩にならなければ胎児死亡に至る
    3. SGA:子宮内で胎児発育が遅延し、分娩週数の平均体重よりも著しく小さく出生する状態。将来の疾病のリスクになり得る



    妊娠高血圧症候群の画像
    図1:一番身長が低い群(Q1: 154cm以下)では身長が高い群(Q4: 162cm以上)と比較して1.35倍の発症率
    図1の画像
    図2:一番身長が低い群(Q1: 154cm以下)では身長が高い群(Q4: 162cm以上)と比較して1.20倍の発症率
    図3の画像
    図3:
    • 一番身長が低い群(Q1: 154cm以下)では身長が高い群(Q4: 162cm以上)と比較して1.09倍の発症率
    • 指示を守った人たちだけを対象とした解析(変則的な解析方法)では、9割減少

    背景・目的

    これまで、妊娠高血圧症候群のリスク因子として初産・多胎妊娠・肥満・既往妊娠高血圧症候群など様々な因子が報告されてきました。しかし、その中で妊婦の身長と妊娠高血圧の関連を調査した報告は少なく、関連性が認められたのはデンマーク人を対象とした報告が唯一であり、その関連性は経産婦に限られるというものでした。
    しかし一方で、一般成人では低身長が将来の高血圧のリスクになることが知られていて、このことを踏まえると同様の機序で低身長が妊娠高血圧のリスクになる可能性があると私たちは推測しました。
    それだけではなく、一般成人では低身長では将来の虚血性心疾患のリスクが高いとされており、妊婦においては虚血性胎盤疾患として分類される常位胎盤早期剥離とSGAのリスクも同様に高いのではないかと考えました。
    妊娠高血圧症候群は産科領域では重要な疾患でリスク因子を同定していくことは極めて大切である一方で、発症率は2-4%に過ぎず、それらのリスク因子を調査するには相当数の症例データが必要でした。そこで、われわれは日本産科婦人科学会のデータベースを利用して、20万人超のデータを解析して関係を調べることを考えました。

    研究手法・成果

    私たちの研究は日本産科婦人科学会が集積したデータベースを使用して行われました。これにより、単一施設におけるデータベースよりも遙かに大量のデータをまとめて解析することが可能となり、このことは比較的頻度が少ない対象疾患で影響力が小さいリスク因子でも検出することを可能にしました。
    初めからリスクが高い症例が多数含まれている場合やデータ不備症例は正しい解析の障害になるため、多胎妊娠・合併症妊娠・胎児形態異常・流産、過期妊娠・データ不備症例を除外して解析しました。
    また、それでものこる交絡因子の影響を除外するために多変量解析を行うだけでなく、各交絡因子の有無で層別化解析(例えば初産婦だけ、経産婦だけに限定した解析など)をおこないました。
    そして、私たちの予想どおり、低身長の妊婦は妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離、SGAのリスクが高いという仮説が実証されました。この結果は前述したとおりで様々な交絡因子の影響を除外しても同様で、例えば初産婦でも経産婦でも身長と妊娠高血圧症候群のリスクは有意な相関関係を認めました。
    さらに、この結果は妊娠歴・肥満度・年齢によらず同様の傾向を示すことも明らかにしました(例えば肥満体型でもやせ体型でも身長と妊娠高血圧症候群のリスクは有意な相関関係があるということになります)。

    今後の展望

    本研究で私たちは、低身長妊婦は妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離、およびSGAのリスクが高いことを証明しました。この結果を踏まえると、いくつかの臨床的なアプローチが可能になります。
    例えば妊娠高血圧症候群のハイリスクとして認識される妊婦さんの場合は低容量アスピリンの内服で発症が一部予防できることが知られており、低身長または低身長に加えてもう一つリスク因子を持っている場合などにアスピリン内服を検討するなどの対策が考えられます。
    また、社会的には低身長妊婦さんにおける高次施設出産の推奨なども検討項目に上がる可能性があります。しかし、これらの臨床的な取り組みはこれからの課題であり、妊婦さん自身へのリスクベネフィットを考えて今後議論していかなければならないと思っています。

    発表論文情報


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