日本における先天性横隔膜ヘルニアの胎児治療成績を発表 生存率および生存に関わる肺面積のカットオフ値が明らかに
本研究論文は、「Fetal Diagnosis and Therapy」に掲載されました。
[1]先天性横隔膜ヘルニアとは、先天的な横隔膜の欠損により腹腔臓器(胃、小腸、大腸、肝臓など)が胸腔(心臓や肺などがある空間)に入ってくるため、肺の発育が妨げられる疾患です。出生児の約2500人に1人の割合で発生し、その約85%は左側の欠損です。欠損の部位や大きさによってほとんど症状や障害が見られない場合もありますが、重症例では出生直後から肺高血圧や呼吸不全等の重大な症状をきたし、死亡率も高い疾患であり、出生後の治療では救命できない場合があります。
[2]胎児鏡下気管閉塞術とは、内視鏡の一種である「胎児鏡」を用いて行う胎児治療です。母体の腹部から子宮内へ胎児鏡を挿入、そこから胎児の気管に入り小さなバルーンを置いておくことで、胎児の気管を一定期間だけ閉塞させます。すると肺胞液が外に出ないため肺にたまり、肺が拡張して成長が促され、出生後の呼吸状態が改善することにつながります。
【図:先天性横隔膜ヘルニアの胎児治療イメージ】プレスリリースのポイント
- 当センターで実施した胎児鏡下気管閉塞術は先天性横隔膜ヘルニアの胎児の肺成長と健側肺面積の増加を促進し、6ヵ月生存率は4割となりました。これは他の先進国での治療成績と並ぶ結果です。
- 6ヵ月生存に関連する術後の健側肺面積(右側の肺面積)のカットオフ値3は33.8%で、術前・術後の面積の差のカットオフ値は7.8%でした。
- 今後は先天性横隔膜ヘルニアに対する胎児治療の効果を予測しやすくなることが期待されます。
[3]カットオフ値とは、ある検査の陽性、陰性を分ける値のことで、今回の場合は生存率を分ける値を指します。
背景・目的
これまで、私たちは国際ランダム化比較試験(TOTAL trial)に参加し、胎児鏡下気管閉塞術が先天性横隔膜ヘルニアの胎児の生存率を有意に改善させることを証明してきました(New England Journal of Medicine,https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2027030)。先天性横隔膜ヘルニアの胎児治療は日本では当センターのみで行われていますが、国や地域により生存率が異なるため、日本独自に生存率を明らかにする必要がありました。また、胎児治療後の生存率を効果的に予測することが難しいという課題もありました。今回の研究で当センターにおける全体的な生存率および胎児治療後の健側肺面積や肺高血圧の有無が生存率に深く関係することが明らかになりました。
研究概要
2014年から2023年にかけて国立成育医療研究センターにて25例の重度または中等度の先天性横隔膜ヘルニアに対する胎児治療(胎児鏡下気管閉塞術)を行い、術前・術後の超音波所見、妊娠転帰、赤ちゃんの6ヵ月生存率を分析しました。
術後に誕生した赤ちゃんのうち、肺高血圧症は71%(21例中15例)で認められ、全体の6ヵ月生存率は40%(25例中10例)でした。6ヵ月生存に関連する術後の健側肺面積のカットオフ値は33.8%で、術前・術後の面積の差のカットオフ値は7.8%でした。これらの結果から、先天性横隔膜ヘルニアの胎児鏡下気管閉塞術は胎児の肺成長を促進し、健側肺面積の増加をもたらし、カットオフ値を超えた場合に生存率が高まる可能性があることが分かりました。
発表論文情報
タイトル:The Outcomes and Lung Changes of Fetoscopic Endoluminal Tracheal Occlusion in Fetus with Diaphragmatic Hernia: A Single-Center Experience in Japan
執筆者:Jin Muromoto1, Katsusuke Ozawa1, Rika Sugibayashi1, Shoichiro Amari2,Seiji Wada1, Yutaka Kanamori3, Yushi Ito2, Haruhiko Sago1,4,5
所属:
1)国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 胎児診療科
2)国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 新生児科
3)国立成育医療研究センター 小児外科系専門診療部
4)山王バースセンター
5)国際医療福祉大学 産婦人科
掲載誌:Fetal Diagnosis and Therapy
DOI:10.1159/000548340
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