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妊娠初期の直接経口抗凝固薬(DOAC)ばく露で先天異常リスクの明確な上昇は認められず~ENTIS加盟の11か国・13機関の国際共同研究成果より~

国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)女性の健康総合センター「妊娠と薬情報センター」の後藤美賀子、藤岡泉は、妊娠初期に直接経口抗凝固薬(DOAC)にばく露した妊婦における先天異常および妊娠転帰を評価する国際共同研究に参加しました。本研究では「妊娠と薬情報センター」も加盟する非営利国際組織ENTIS(European Network of Teratology Information Services:欧州テラトロジー情報サービスネットワーク)が、加盟11か国・13機関において、2008年から2024年にかけて収集・統合した前向きコホートデータを用いました。妊娠初期に、心房細動や静脈血栓塞栓症に広く処方される直接経口抗凝固薬(DOAC)を服用(ばく露)した妊娠343例と、妊娠中に標準的に用いられる低分子量ヘパリン(LMWH)を投与した698例を比較したところ、子どもの先天異常に対する有意なリスク上昇は認められませんでした。
本研究成果は、国際的な学術誌「Journal of Thrombosis and Haemostasis」(2026年9月15日オンライン公開/オープンアクセス)に掲載されました。

表1:妊娠初期のDOACばく露群と低分子量ヘパリン(LMWH)ばく露群の比較【表1:妊娠初期のDOAC ばく露群と低分子量ヘパリン(LMWH)ばく露群の比較】

プレスリリースのポイント

  • 本研究はENTIS加盟センターの国際共同研究であり、11か国・13機関の相談データを統合したものです。日本からは国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター(JDIIP)」が参加しました。
  • 妊娠初期のDOACばく露と子どもの先天異常との関連は認められませんでした。(DOAC群2.9%〈8/279 例〉対 LMWH 群4.3%〈25/586例〉、調整オッズ比0.74、95%信頼区間0.33-1.67)。観察された先天異常に特定の催奇形性パターンは示唆されませんでした。
  • 妊娠喪失(流産・死産等)のリスク上昇も認められませんでした。一方、妊娠中絶の割合はDOAC群で高い結果となりました(14%対5%)。これは薬剤そのものの影響を示すものではなく、胎児への影響に対する不安、もとの疾患や血栓のリスクを踏まえた治療方針の検討などを反映している可能性があります。
  • 「妊娠初期に誤って服用してしまった」場合のカウンセリングを後押しする結果である一方、症例数とばく露時期の観点から限界もあり、研究グループはより大規模な検証が必要としています。

背景・目的

DOAC(直接経口抗凝固薬)は、心房細動や静脈血栓塞栓症に対する抗凝固療法の中心的選択肢として、近年、妊娠可能年齢の女性にも広く処方されるようになっています。その結果、妊娠に気づかないまま妊娠初期にDOACを服用するケースが増えています。
日本においてはDOACの中で、リバーロキサバンが添付文書において妊婦禁忌であり、他のDOACは有益性投与となっています。しかしながらこれまで妊婦における十分なデータがないことからDOACの妊娠中の投与を避け、未分画ヘパリンに切り替えることが標準的な治療とされてきています(欧州と異なり日本においてはLMWHの適応疾患が限定的であるため)。
そのため、妊娠初期のDOACばく露が先天異常のリスクを高めるかどうかについての研究が求められていました。
そこで、薬剤ばく露と妊娠の安全性を専門に相談・研究を行うテラトロジー情報サービス(TIS)の国際ネットワークであるENTISが、各国の相談データを統合した国際共同研究を実施しました。

研究概要

研究デザイン:多施設共同・前向き観察コホート研究。妊娠初期(第1 三半期)にDOACを服用した妊娠と、同時期に低分子量ヘパリン(LMWH)を投与した参照群の妊娠転帰を比較しました。
データ提供:11か国・13のENTIS 加盟機関(ドイツ、イスラエル、フランス、日本、英国、イタリア、オーストラリア、スペイン、ベルギー、オランダ、スイス)。
対象期間:2008年〜2024年。
対象例数:DOACばく露妊娠343例、LMWHばく露妊娠698例。
評価項目:先天異常(major birth defects)の頻度、および妊娠転帰(生児出生・妊娠喪失・妊娠中絶)。

今後の展望・発表者のコメント

妊娠初期のDOACばく露は、先天異常および妊娠喪失のリスクを明確に高めるものではなく、観察された先天異常にも催奇形性を示唆するパターンは認められませんでした。これは既存の報告と一致する結果であり、「妊娠中に意図しないばく露が起きてしまった」場合のカウンセリングの安心材料となるものです。
一方で、症例数とばく露時期(妊娠初期のどの時点でばく露したか)に限界があるため、今回の結果を確証するためのより大規模な研究が必要です。

発表論文情報

タイトル:Reproductive safety of direct oral anticoagulants after maternal exposure in early pregnancy: a comparative ENTIS cohort study
執筆者:キム・ダオ1、ウルスラ・ヴィンターフェルト1、マリア・ヘルツェンバイン2, 3、後藤美賀子4、藤岡泉4、他
所属:
1)Swiss Teratogen Information Service and Clinical Pharmacology Service,Department of Medicine, Centre Hospitalier Universitaire Vaudois (CHUV) andUniversity of Lausanne, Lausanne, Switzerland.
2)Charité - Universitätsmedizin Berlin, Corporate Member of Freie Universität Berlin and Humboldt-Universität zu Berlin, Institut für Klinische Pharmakologie und Toxikologie, Pharmakovigilanz- und Beratungszentrum für Embryonaltoxikologie,Berlin, Germany.
3)Medizinisches Versorgungszentrum Humangenetik Bremen, Limbach Genetics, Bremen,Germany.
4)国立成育医療研究センター 女性の健康総合センター 妊娠と薬情報センター

掲載誌:Journal of Thrombosis and Haemostasis
DOI:10.1016/j.jtha.2026.08.037

本件に関する取材連絡先

国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室

03-3416-0181(代表)

koho@ncchd.go.jp

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