乳児期の皮膚炎が成長後の炎症反応を増幅させる 皮膚に残る「自然免疫の長期的な変化」をマウスで発見
国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)免疫アレルギー・感染研究部の杉山弘樹、松本健治、森田英明らの研究グループは、乳児期に生じた皮膚炎が、いったん治まった後も皮膚の自然免疫系に長期的な変化を残し、成長後の炎症反応を強くすることをマウスモデルで明らかにしました。
2週齢の乳児マウスにアトピー性皮膚炎(AD)[1]のような皮膚炎を引き起こし、炎症が消えた後、8週齢(成体期)で再び同じ刺激を加えたところ、乳児期に皮膚炎を経験したマウスでは皮膚の腫れや表皮が厚くなること、また炎症細胞の集積が強くなりました。さらに、刺激を与えない状態でも皮膚におけるIL-5・IL-13[2]発現を上昇させる自然免疫系の変化が長期的に残ることが分かりました。また、乳児期に皮膚炎になった後にステロイドの塗り薬で治療すると急性炎症は早く改善しましたが、今回の投与条件では成体期の炎症悪化は予防できませんでした。これらの結果は、乳児期の皮膚炎が自然免疫に長期的な「刻印(=免疫インプリンティング[3])」を残す可能性を示しています。
本研究成果は、学術誌「Allergology International」に2026年10月3日にオンラインに掲載されました。
注意:本研究はマウスを用いた基礎研究です。外用ステロイド薬に関する結果は特定の投与条件での実験結果であり、ヒトのアトピー性皮膚炎に対する外用ステロイド治療の有効性を否定するものではありません。
[1] アトピー性皮膚炎(AD):皮膚バリア機能の異常と免疫反応により、かゆみと炎症を伴う慢性・反復性の皮膚疾患。
[2] IL-5・IL-13:アレルゲンなどを標的とした2型炎症に関わるサイトカインです。IL-5は好酸球の増殖・活性化、IL-13は皮膚や粘膜の炎症反応などに関与する。
[3] 免疫インプリンティング:過去の炎症や環境刺激を受けた後も、免疫細胞の数や状態などに比較的長く変化が残り、その後の免疫反応に影響する現象を指します。

プレスリリースのポイント
- 乳児期にアトピー性皮膚炎のような症状を経験したマウスでは、皮膚炎がいったんなくなった後も、成体期に再び刺激を与えると強い皮膚の炎症を示しました。
- 炎症がなくなった後もIL-5が作り出され、CCR6陰性ILC[4]が皮膚に多く残り、皮膚全体でのIL-5・IL-13の発現も高いことから、乳児期の皮膚の炎症が自然免疫に長期的な変化を残すことが示されました。
- 乳児期におけるステロイドの塗り薬による治療は、急性の炎症を改善しましたが、今回の投与条件では成体になってからの炎症の悪化を予防できず、将来的な病気の進行を食い止める方法を検討する必要性が示唆されました。
[4] 自然リンパ球(ILC):抗原を特異的に認識する受容体を持たず、周囲のサイトカインなどに反応して速やかに免疫応答を引き起こすリンパ球の一群。
背景・目的
アトピー性皮膚炎(AD)は、強いかゆみを伴う慢性・反復性の炎症性皮膚疾患で、多くは乳幼児期に発症します。特に早い時期に発症する湿疹は、その後もADが持続することや、食物アレルギー、喘息など複数のアレルギー疾患を発症することと関連する可能性が示唆されています。しかし、乳児期の皮膚炎が同じ場所で反復するのか、あるいは皮膚炎そのものが将来の皮膚の免疫反応をどのように変化させるのか、その仕組みは十分に分かっていませんでした。
乳児期のADでは、アレルゲン特異的IgE抗体が十分に形成される前から湿疹がみられることがあり、獲得免疫だけでなく自然免疫が重要な役割を持つ可能性が示唆されています。2型自然リンパ球(ILC2)は、皮膚や肺などに存在し、TSLPやIL-33など上皮細胞由来のサイトカインに反応してIL-5やIL-13を作り出す自然免疫細胞です。特に乳児期にはILC2が多いことが知られていますが、この時期の炎症が、ILC2を含む皮膚免疫系に長期的にどのように影響を及ぼすかは明らかにされていませんでした。
研究成果
研究グループは、2週齢のマウスの耳にビタミンD誘導体MC903を2週間塗り、AD様皮膚炎を誘導しました。乳児マウスでも、皮膚の腫れや表皮が厚くなり、IL-4、IL-13などの2型サイトカインや、TSLP、IL-33などの上皮由来サイトカインが多く放出されました。また、好酸球、好塩基球、自然リンパ球(ILC)などの炎症細胞が血管から組織に入り込み、乳児期にAD様炎症が起こることを確認しました。その後、MC903を塗ることを中止すると皮膚炎は約2週間で外見上は自然になくなりました。
次に、皮膚炎がなくなったマウスを8週齢まで育て、再びMC903を塗りました。乳児期に皮膚炎を経験したマウスでは、皮膚炎を経験しなかったマウスと比べ、再び刺激を与えた後の耳の腫れ、表皮が厚くなる、炎症細胞が皮膚へと入り込んでくるなどが著しく増えました。IL-4、IL-5、IL-13などの2型サイトカインも著しく上昇しました。一方、上皮細胞由来サイトカインTSLPの発現はどちらのマウスも同じ程度のため、成体期の上皮からの刺激が単純に強くなったのではなく、乳児期の炎症を経験した皮膚側の応答の仕方が変化している可能性が示されました。
さらに、IL-4およびIL-5のもとになる遺伝子が働き、細胞がこれらを作り出す・放出する際に、その細胞が光るようにしたマウスを用いて調べると、再び刺激を与えた時のIL-4は主に好塩基球から、IL-5は主にCCR6陰性ILCから作られていました。
乳児期に皮膚炎を経験したマウスでは、再び刺激を与えなくてもIL-5を作りだし、CCR6陰性ILCが皮膚に増加しており、IL-5とIL-13の基礎発現も高い状態となっていました。加えて、皮膚炎後にステロイドの塗り薬で治療すると乳児期の急性炎症は早く改善したものの、今回の投与条件では成体期に再び刺激を与えた際の炎症が強くなる状況は抑えられませんでした。
これらの結果から、乳児期の皮膚炎が自然免疫系に長期的な変化を及ぼし、その後の皮膚炎症の起こりやすさに関係する可能性が示されました。
今後は、皮膚に残る「自然免疫の長期的な変化」を正常化する新たな治療方法を検討するとともに、こうした自然免疫応答の変化を早期に検出するバイオマーカーの探索などに取り組んで行きたいと考えています。
発表論文情報
英題:Infant dermatitis induces long-lasting innate immune imprinting associated with the exacerbated adult atopic dermatitis-like skin inflammation
執筆者:Hiroki Sugiyama1, 2、Masato Tamari1、Yuka Hayashi1、Naoko Nagano1、Ayako Yamada1、Keisuke Orimo1、Kyoko Saito1、Ryo Matsuoka1、Kenichiro Motomura1, 3、Satoshi Fujita1、Hisataka Nakazaki1、Hiromichi Yamamoto3、Taro Higuchi1、Ken Arae1, 4、Masashi Ikutani5、Kiyoshi Yamaguchi6、Yoichi Furukawa6、Shuichi Ito2、
Katsuko Sudo7、Hirohisa Saito1、Susumu Nakae4、Kenji Matsumoto1、Hideaki Morita1, 8
所属:
1. 国立成育医療研究センター 研究所 免疫アレルギー・感染研究部
2. 横浜市立大学 小児科学教室
3. 女性の健康総合センター 女性免疫バイオメディカル研究室
4. 杏林大学 保健学部
5. 広島大学大学院 統合生命科学研究科
6. 東京大学医科学研究所 先端医療研究センター 臨床ゲノム研究分野
7. 東京医科大学 疾患モデル研究センター
8. 国立成育医療研究センター アレルギーセンター
掲載誌:Allergology International
掲載日:2026年10月3日
DOI:10.1016/j.alit.2026.08.005
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