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コハク酸が好酸球性小腸炎を誘導する新たなマウスモデルを確立 ~タフト細胞-IL-25-ILC2の経路が病態形成の中心に~

国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)免疫アレルギー・感染研究部の松岡諒、松本健治、森田英明らの研究グループは、マウスにコハク酸[1]を継続的に摂取させることで、体重増加不良などの成長障害を伴う好酸球性小腸炎[2]を引き起こす新たな動物モデルを確立しました。
本研究では、コハク酸を飲み水に加えて21日間投与すると、小腸の一部である回腸に好酸球が著しく集積し、腸管上皮のタフト細胞[3]が増加することを見出しました。遺伝子欠損マウスなどを用いた解析から、好酸球性小腸炎の病態は、タフト細胞が分泌するタンパク質であるIL-25[4]を起点として2型自然リンパ球(ILC2)[5]が活性化し、IL-5およびIL-13を産生する経路が重要であることが分かりました。さらに、本マウスモデルの腸管組織における遺伝子発現には、ヒトの好酸球性大腸炎・十二指腸炎と共通する特徴が認められました。本成果は、病態解明が十分に進んでいない好酸球性消化管疾患の研究を進め、新たな治療法を検討するための基盤になることが期待されます。
本研究成果は、学術誌「Allergology International」に2026年8月22日付で掲載されました。

注意:本研究は、通常では想定しにくい高濃度のコハク酸を継続的に投与したマウスモデルの結果であり、コハク酸を含む食品や食品添加物の一般的な摂取が、ただちにヒトの好酸球性消化管疾患の発症につながることを示すものではありません。

[1] コハク酸:エネルギー代謝で作られる有機酸。食品に含まれ、腸内細菌も産生する。
[2] 好酸球性小腸炎:小腸に好酸球が過剰に集積して炎症を起こす、好酸球性消化管疾患の一つ。
[3] タフト細胞:腸管内の化学物質を感知し、IL-25を分泌し、免疫反応を開始する特殊な上皮細胞。
[4] IL-25:タンパク質の一種で、タフト細胞などが産生し主に2型免疫反応を誘導するサイトカイン。
[5] 2型自然リンパ球(ILC2):IL-25などに反応し、IL-5やIL-13を産生する自然免疫細胞。

研究成果の概要図

プレスリリースのポイント

  • マウスにコハク酸を21日間継続投与することで、好酸球の小腸への集積と成長障害を示す、新たな好酸球性小腸炎モデルを確立しました。
  • タフト細胞を欠くマウスでは好酸球性小腸炎の病態を示さず、タフト細胞-IL-25-ILC2経路が病態形成の中心であることを明らかにしました。
  • 本マウスモデルでは好中球浸潤、下痢、血清IgE上昇を伴わず、ヒトの好酸球性消化管疾患と共通する遺伝子発現も確認されました。

背景・目的

好酸球性消化管疾患(EGIDs)は、下痢や腹痛などの消化器症状を呈し、消化管の組織に好酸球が過剰に集積する慢性炎症性疾患の総称です。食道に生じる好酸球性食道炎については病態研究が進んでいますが、胃・十二指腸・小腸・大腸に生じる疾患については、腹痛、下痢、体重減少、成長障害など症状が多様で、発症の仕組みも十分には分かっていません。特に、ヒトの病態を適切に再現する動物モデルが限られていることが、治療法の開発を進める上で課題となっていました。
タフト細胞は、腸管上皮に少数存在し、腸の中の化学物質を感知する特殊な細胞です。寄生虫感染時にはIL-25を放出して2型自然リンパ球(ILC2)を活性化し、IL-5やIL-13を介して2型免疫反応[6]を誘導します。コハク酸は体内のエネルギー代謝で生じる物質で、食物や腸内細菌にも由来します。タフト細胞がコハク酸を感知することは知られていましたが、この反応が好酸球性消化管疾患に似た病態を引き起こすかは明らかではありませんでした。

[6] 2型免疫反応:主に寄生虫やアレルゲンに対抗するための、体の免疫反応。粘液を分泌して、標的となる寄生虫などを追い出したりする。一方、1型免疫反応は、主な標的をウイルス、細菌などとしている。

研究成果

研究グループは、4週齢のマウスに150 mMのコハク酸を含む飲み水を21日間与えました。その結果、対照群と比べて成長障害(体重増加不良)、回腸に好酸球が有意に集積するとともに、タフト細胞が増加しました。一方、好中球の増加、下痢、血清総IgE値の上昇は認められませんでした。これは、潰瘍や下痢を主体とする従来の腸炎モデルとは異なり、ヒトの食道以外の好酸球性消化管疾患にみられる特徴の一部を再現するものです。
次に、タフト細胞の形成に必要なPou2f3遺伝子[7]を欠くマウスを調べたところ、コハク酸を投与しても好酸球の集積、タフト細胞の増加、成長障害はいずれも生じませんでした。
また、IL-25またはIL-5を欠くマウスでも好酸球の集積と成長障害は生じませんでした。
IL-13を欠くマウスではタフト細胞の増加と成長障害は生じなかった一方、好酸球の集積は残りました。これらの結果から、各因子の役割は異なるものの、タフト細胞-IL-25-ILC2-IL-5/IL-13経路が、好酸球性小腸炎の病態形成を担うことが示されました。
さらに、回腸組織の網羅的遺伝子発現解析では、コハク酸投与群で2,678遺伝子の発現が変化しました。公開されているヒトの好酸球性大腸炎および好酸球性十二指腸炎のデータと比較すると、好酸球の活性化や2型炎症に関わる遺伝子、およびIL-13シグナルなどの経路に共通性が認められました。このモデルは、病態の仕組みを調べるだけでなく、タフト細胞やIL-25を標的とする新たな治療候補を評価する研究にも活用できると考えられます。

[7] Pou2f3遺伝子:幹細胞をタフト細胞へと分化させる働きを持つ遺伝子。

発表論文情報

英題:Continuous succinate administration induces eosinophilic enteritis via the tuft cell-IL-25 axis in mice
邦題:コハク酸の持続投与はタフト細胞-IL-25経路を介してマウスに好酸球性小腸炎を誘導する

執筆者:Ryo Matsuoka1, 2、Yuka Hayashi1、Naoko Nagano1、Hiroki Sugiyama1、Ayako Yamada1、Keisuke Orimo1、Masato Tamari1、Kenichiro Motomura1, 3、Satoshi Fujita1, 2、Hisataka Nakazaki1、Hiromichi Yamamoto1, 3
Taro Higuchi1、Masashi Ikutani4、Ken Arae1, 5、Kiyoshi Yamaguchi6、Yoichi Furukawa6、Katsuko Sudo7
Kimihiko Oishi2、Hirohisa Saito1、Susumu Nakae4、Hideaki Morita1, 8、Kenji Matsumoto1

所属:
  1. 国立成育医療研究センター 研究所 免疫アレルギー・感染研究部
  2. 東京慈恵会医科大学 小児科学講座
  3. 国立成育医療研究センター 女性の健康総合センター 女性免疫バイオメディカル研究室
  4. 広島大学大学院 統合生命科学研究科
  5. 杏林大学 保健学部
  6. 東京大学医科学研究所 先端医療研究センター 臨床ゲノム腫瘍学分野
  7. 東京医科大学 疾患モデル研究センター
  8. 国立成育医療研究センター アレルギーセンター
掲載誌:Allergology International
掲載日:2026年8月22日
DOI:https://doi.org/10.1016/j.alit.2026.08.002
本件に関する取材連絡先

国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室

03-3416-0181(代表)

koho@ncchd.go.jp

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