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血球系細胞や間質細胞を含む「骨髄オルガノイド」を作製 さらに、胸腺の働きを再現するヒト由来骨髄間質細胞『iBOSS』を確立 ~従来のマウス細胞に代わる基盤として細胞治療・創薬への応用に期待~

国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)の再生医療センター阿久津英憲と李知英らの研究グループは、ヒトiPS細胞を用いて、血球系細胞[1]、血管系細胞、間質細胞[2]を含む骨髄[3]に似た立体臓器「骨髄オルガノイド(iBMO)」を作製しました。さらに、この骨髄オルガノイドから、T細胞[4]や樹状細胞などの免疫細胞の分化を支えるヒト由来骨髄間質細胞「iBOSS」を樹立しました。ヒトiPS細胞から「骨髄オルガノイド」を作製しただけではなく、そこに含まれる間質細胞が本来は胸腺で作られるT細胞も含めた免疫細胞へと分化させる一連の仕組み=「骨髄の場」を一つの試験管内で再現したのは、画期的な成果です。
これまで、免疫細胞の分化研究では、マウス由来の間質細胞が広く用いられてきました。本研究で得られた「iBOSS」は、ヒト由来の間質細胞で血液・免疫細胞の分化を支えることができるため、よりヒトに近い研究モデルとして、細胞治療や創薬開発の基盤技術となることが期待されます。
さらに、ヒトの造血や免疫のしくみを理解し、血液疾患・免疫疾患の病態解明、薬剤評価、再生医療・細胞治療の開発に貢献する可能性があります。
本研究成果は、幹細胞・再生医療分野における国際的な学術誌「Stem Cell Research & Therapy」に掲載されました。

[1] 血球系細胞:本リリースでは、CD34陽性の造血幹前駆細胞の事を指す。
[2] 間質細胞:造血幹細胞を抱きかかえる特別な微小環境(ニッチ)を作ったり、血液細胞や免疫細胞へと分化の指示を出す役割がある。
[3] 骨髄:大腿骨や胸骨、骨盤などの硬い骨の内部の空洞を満たしている、血液細胞を作り出す半固形の組織。
[4] T細胞:免疫の司令塔であるヘルパーT細胞や、ウイルス感染した細胞を破壊するキラーT細胞の総称。骨髄で生まれたT細胞前駆細胞が胸にある胸腺に移動し、そこでトレーニングを受けたのちにT細胞になる。


自己組織化による骨髄オルガノイドの創成、IBOSSの作製と応用の図

プレスリリースのポイント

  • ヒトiPS細胞を用いて、血球系細胞、血管系細胞、間質細胞を含む骨髄に似た立体臓器「骨髄オルガノイド(iBMO)」を作製しました。(図1)
  • 骨髄オルガノイドから、免疫細胞の分化を支えるヒト由来骨髄間質細胞「iBOSS」を取り出し、安定して増やせる細胞株を樹立しました。(図2)
  • T細胞は本来、骨髄とは別の臓器である胸腺で分化しますが、ヒト由来骨髄間質細胞「iBOSS」を用いると、造血前駆細胞をT細胞や樹状細胞に分化させることに成功しました。(図4)
  • 本研究で作製した「骨髄オルガノイド」とヒト由来骨髄間質細胞「iBOSS」は、骨髄と胸腺の働きを一つの仕組みの中で再現することに成功した、画期的な成果です。
  • 本研究成果は、血液・免疫疾患の病態解明、薬の安全性評価、細胞治療への応用が期待されますが、基礎研究段階の成果であり、直ちに臨床応用できるものではありません。

背景・目的

骨髄移植(造血幹細胞移植)は血液や免疫の病気の有効な治療法として確立されていますが、ドナー不足、HLA(白血球の型)の不一致、移植後の合併症、免疫回復の遅れなど課題が残されています。こうした課題を乗り越えるため、患者さん自身の細胞から血液・免疫細胞を安定してつくり出す技術が求められてきました。
一方で、これまでヒトの造血や免疫細胞分化を調べる研究では、培養皿上で細胞を育てる方法やマウス由来の間質細胞(OP9細胞)を用いる方法が広く用いられましたが、医療応用の面ではヒト細胞に基づいたより生体に近い骨髄モデルが必要です。
iPS細胞を立体的に育てて臓器の働きを再現する「オルガノイド」技術はこの数年で大きく進展しましたが、これまでの骨髄モデルには単純な球体構造、T細胞への分化支持能が欠如しているなどの限界がありました。T細胞への分化は通常、骨髄とは別の臓器である胸腺が担うため、骨髄と胸腺の働きを一つの仕組みの中で再現することは困難でした。
そこで本研究では、ヒトiPS細胞から、血液細胞や免疫細胞を生み出す「骨髄の場」を再現することを目指しました。さらに、作製した骨髄オルガノイドから、血液・免疫細胞の分化を支えるヒト由来骨髄間質細胞を樹立し、新しいヒト造血・免疫研究基盤としての有用性を検証しました。

研究概要

本研究では、ヒトiPS細胞を用いて、骨髄に似た立体臓器である「骨髄オルガノイド」を作製しました。主な研究内容は以下の通りです。

➀3D骨髄オルガノイド(iBMO)の作製

特別な足場材料(細胞外マトリックス)を使わない簡便な培養法を開発し、複数のヒトiPS細胞株から、血球系細胞・血管系細胞・間質細胞を含む立体的な骨髄に似た組織「骨髄オルガノイド(iBMO)」を作製しました。

➁単一細胞RNA解析による骨髄構成マーカー確認(図3)

iBMO内に存在する細胞の種類や特徴を調べ(約6万4千個の細胞を解析)、12種類の細胞集団を特定し、ヒトの骨髄を構成する遺伝子の働きに近いことを確認しました。

単一細胞RNA解析による骨髄構成マーカー確認

➂ヒト由来骨髄間質細胞「iBOSS」の樹立

iBMOから、免疫細胞の分化を支える骨髄間質細胞「iBOSS」を取り出し、安定して増やせる細胞株を樹立しました。iBOSSは、間葉系幹細胞としての性質(骨・軟骨・脂肪への分化能)を備えていました。

➃T細胞・樹状細胞の分化(図4)

iBOSSを土台として、iPS細胞由来の造血前駆細胞から、免疫に重要なT細胞(CD4陽性細胞など)と樹状細胞を分化させることに成功しました。これは、骨髄と胸腺の両方の働きを一つの系で再現できたことを示します。

T細胞・樹状細胞の分化

➄動物移植による機能の実証(図5)

iBMOを免疫不全マウスに移植したところ、ヒトの赤血球がつくられ(造血)、さらに軟骨や骨が形成され(骨化)、ヒトのT細胞も確認されました。本来は造血や骨形成が起こらない場所に移植しても自律的にこれらの機能を発揮したことから、移植可能な「ヒト骨髄の代替組織」として働くことが示されました。

動物移植による機能の実証

なお、免疫細胞への分化の土台にはこれまでマウス由来の細胞(OP9細胞など)が世界的に広く使われてきましたが、iBOSSはすべてヒトの細胞でできているため、より安全でヒトに近い研究・製造基盤になると期待されます。

発表論文情報

タイトル:Human iPSC-derived Bone Marrow Organoids with Integrated Hematopoietic and T Cell-Supportive Niches

執筆者:李知英1、川崎友之1、田畑莉里香1、陳俊龍1、内山徹2、 山﨑聡3、 梅澤明弘1、阿久津英憲1
所属:
1)国立成育医療研究センター 再生医療センター
2)国立成育医療研究センター 成育遺伝研究部/遺伝子細胞治療推進センター
3)東京大学医科学研究所 システム疾患モデル研究センター 細胞制御研究分野

掲載誌: Stem Cell Research & Therapy
DOI:https://doi.org/10.1186/s13287-026-05249-1

特許情報

本研究成果に関連する骨髄オルガノイドおよびヒト由来骨髄間質細胞に関する技術については、国立成育医療研究センターよりPCT国際出願を行っています。
発明の名称:骨髄間質オルガノイドの製造方法、骨髄間質オルガノイド、及びその利用
国際出願番号:PCT/JP2025/022044
国際出願日:2025年6月19日

本件に関する取材連絡先

国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室

03-3416-0181(代表)

koho@ncchd.go.jp

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