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前眼部形成異常などの視覚難病の原因遺伝子変異を特定

国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)の仁科幸子小児外科系専門診療部統括部長・眼科診療部長、安齋葉月眼科医員、吉田朋世眼科医員、松原圭子研究所室長、深見真紀研究所所長らの研究グループは、京都府立医科大学、三重大学、浜松医科大学との多機関共同研究によって、これまで不明であった東アジア人集団における前眼部形成異常1(Anterior-Segment Dysgenesis:ASD)/無虹彩症2(Aniridia)および小眼球症3(Microphthalmia)/無眼球症4(Anophthalmia)の遺伝的背景の解明と効率的な遺伝子診断手法の開発に取り組みました。
本研究では、ターゲットを絞った次世代シークエンシング5による遺伝子パネル(表1)を作成して総計111例を解析した結果、ASD/無虹彩症については50.0%、小眼球症/無眼球症については37.5%の割合で原因遺伝子を特定。これまでに報告されていない11の変異(病的バリアント)を特定しました。私たちの作成した遺伝子パネルによる解析が、ASD/無虹彩症および小眼球症/無眼球症の効率的な遺伝子診断に有用であり、臨床に応用可能であることを示す結果です。また、私たちのデータにより、単一遺伝子変異によって引き起こされるこれらの疾患の遺伝型と表現型の特徴が明らかになりました。さらに、原因遺伝子と緑内障、全身合併症との関連性が示す知見が得られ、これらの希少かつ難治性の乳幼児眼疾患のある小児に対し、より適切な管理とケアに貢献することが期待されます。
本研究成果は、Ophthalmology Science 2026に掲載されました。

[1]前眼部形成異常:胎児の発生段階で「角膜」や「虹彩」などの目の前半部分(前眼部)が正常に形成されないことによって生じる、生まれつきの目の病気の総称のこと。
[2]無虹彩症:目に入る光の量を調節する「虹彩(茶目)」が生まれつき完全または部分的に欠損している、10万人に1人の稀な遺伝性疾患のこと。
[3]小眼球症:眼球の大きさが生まれつき通常の約3分の2以下と極端に小さい先天性の疾患のこと。
[4]無眼球症:胎児の発育過程で何らかの異常が起き、生まれつき片方または両方の眼球が完全に欠損、あるいは極めて小さく未発達な状態の先天性疾患のこと。
[5]次世代シークエンシング:DNA やRNA の塩基配列を超高速かつ並列に読み取る技術のこと。

表1:遺伝子パネル【表1:遺伝子パネル】

表2:ASD/無虹彩症の表現型、原因遺伝子、同定率【表2:ASD/無虹彩症の表現型、原因遺伝子、同定率】

ASDに分類されるさまざまな眼の形態異常が同じタイプの疾患群であり、無虹彩症とも重なる可能性があることが分かりました。複数の原因遺伝子が特定されました。 無虹彩症・部分無虹彩症は特定率が高く、ASDを総計すると原因遺伝子特定率は50.0%です。
表3:ASD/無虹彩症の原因遺伝子と緑内障および全身疾患の合併率 【表3:ASD/無虹彩症の原因遺伝子と緑内障および全身疾患の合併率】
CYP1B1,FOXC1関連ASDには重篤な視覚障害をきたす"緑内障"合併の確率が高く、PITX2,FOXC1関連ASDには"全身疾患(心疾患、難聴、歯牙異常)"合併の確率が高い。本パネルを用いた効率的な遺伝子診断は、臨床上、眼・全身合併症の管理に有用です。

プレスリリースのポイント

  • 本研究は、東アジア人集団におけるASD/無虹彩症および小眼球症/無眼球症の遺伝的背景を調査した初めての研究です。
  • 次世代シーケンシングによる遺伝子パネル解析が、ASD/無虹彩症および小眼球症/無眼球症の効率的な遺伝子診断に有用であることを示した初めての報告です。
  • ASD/無虹彩症および小眼球症/無眼球症に関連する、これまで報告されていなかった変異(病的バリアント)を複数特定し、これらの疾患の遺伝型及び表現型の多様性が大幅に拡大しました。
  • 本研究は、日本における常染色体潜性ASD/無虹彩症の発症に、祖先から受け継いだCYP1B1の変異が寄与しているという証拠を提供しました。これは東アジア人ならではの特徴です。
  • 遺伝子型と緑内障、全身合併症との関連性を明らかにし、原因遺伝子によっては他科との連携も重要となるなど、臨床上有用な情報を提供しました。

背景・目的

前眼部形成異常、無虹彩症、小眼球症・無眼球症は、いずれも乳幼児期に発症する視覚の難病です。視覚と心身が急速に発達する感受性のピークは0歳~2歳であり、早期にこれらの視覚難病を的確に診断し、有効な管理と治療ケアを行うことが、その後の障害の程度を左右します。
これらの疾患の遺伝的背景には不明な点が多く、これまで遺伝学診断手法は未確立でした。このため大規模な患者コホートに対する臨床的および遺伝学的解析が求められていました。本研究では、単一遺伝子変異に起因する前眼部形成異常(ASD)/無虹彩症および小眼球症/無眼球症の分子的および臨床的特徴を明らかにすることを目的としました。

研究概要

日本において乳幼児の視覚難病が集積する多機関共同研究を通じて、生後1か月から69歳まで(小児例18歳以下94例84.7%)の計111名の患者さんとそのご家族を登録しました。解析方法として、ASDおよび無虹彩症(97名・88家系)ならびに小眼球症・無眼球症(14名・14家系)の主要な原因遺伝子11個および12個について、それぞれカスタム設計されたパネルを用いた次世代シーケンシングを実施しました(図1)。そして、病原性または病原性の可能性が高い変異(バリアント)が認められた患者さんの臨床情報を解析しました。主要評価項目は、集計された遺伝子解析結果および臨床データです。その結果、ASD/無虹彩症について50.0%、小眼球症/無眼球症については37.5%の原因遺伝子特定
率を達成しました。また、これまでに報告されていない11の変異(病的バリアント)を特定しました。PAX6、PITX2、GJA8遺伝子では突然変異、FOXC1およびCYP1B1遺伝子では親から引き継いだ変異がASD/無虹彩症の主な原因でした。最も重要な点として、本研究ではCYP1B1およびFOXC1バリアントを持つ患者さんにおける緑内障の高い発生率、ならびにFOXC1およびPITX2バリアントを持つ患者さんにおける全身異常の頻発が示されたことです。

発表論文情報

掲載誌:Ophthalmology Science
タイトル:Molecular and Clinical Analyses of 111 Patients with Bilateral Anterior-Segment Dysgenesis/Aniridia and Microphthalmia/Anophthalmia
DOIhttps://doi.org/10.1016/j.xops.2026.101339
執筆者:Sachiko Nishina(1), Hazuki Anzai(1), Tomoyo Yoshida(1), Yoshito Koyanagi(1),Sayaka Kamada(2), Kumiko Kato(3), Kaoruko Torii(4), Akiko Hikoya(4), Mineo Kondo(3),Chie Sotozono(2), Keiko Matsubara(1), Maki Fukami(1)
所属:
(1)国立成育医療研究センター
(2)京都府立医科大学大学院医学研究科
(3)三重大学大学院医学系研究科
(4)浜松医科大学医学部

本件に関する取材連絡先

国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室

03-3416-0181(代表)

koho@ncchd.go.jp

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