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ヒトの腸の免疫センサーはマウスと違う仕組みと判明 腸管オルガノイド「ミニ腸」を用いてヒト腸管タフト細胞モデルを開発~マウス細胞に代わり細胞治療・創薬への応用に期待~
本研究により、ヒトのタフト細胞はマウスとは全く異なる免疫回路で働くことが明らかになり、ヒトの腸の免疫システムを理解するためには、マウスのモデルをそのまま当てはめるだけでは不十分であることを示しました。
特にヒトでは、IL-254(免疫活性化物質)をほとんど産生しない。DCLK25が主要マーカーで、マウスのDCLK1とは異なる。マウスで知られるBMPフィードバック6がヒトでは働かない。など、教科書的知識を覆す発見が得られました。
本成果は、米国消化器病学会(AGA)が発行する国際誌 「Gastro Hep Advances」に掲載されました。
[1]オルガノイド:幹細胞から作る立体的な疑似臓器のこと。ミニ腸は消化管の粘膜上皮のみならず、平滑筋や神経なども有し、自律的に蠕動様運動を行い、栄養吸収・代謝や分泌の働きをする。
[2]多能性幹細胞:ES細胞やiPS細胞など、ほぼ無限に増殖する能力(自己複製能)と、体を構成するすべての組織や臓器の細胞に分化する能力(多分化能)を併せ持つ細胞のこと。
[3]タフト細胞(tuft cell):腸にわずか1%以下しか存在しない稀少な細胞。寄生虫や代謝物を検知し、免疫応答を開始する「腸のセンサー」のこと。
[4]IL-25:マウスではタフト細胞が大量に分泌し、免疫細胞(ILC2)を活性化する中心的サイトカインのこと。
[5]DCLK1/DCLK2:タフト細胞のマーカーとして知られる遺伝子のこと。今回の研究で、ヒトではDCLK2が主要マーカーであることが判明。
[6]BMPフィードバック:細胞が骨形成タンパク質(BMP)の働きを強めたり弱めたりして調節する仕組みのこと。
プレスリリースのポイント
- ヒトES細胞・iPS細胞から作製した、上皮・間質・神経を含む実際のヒトの腸に近い多細胞型機能性腸管オルガノイド(「ミニ腸」)を用いた研究です。
- Th2サイトカイン7+Notch 阻害8により、ヒト腸管タフト細胞を安定誘導しました。
- 世界初:ヒト腸管タフト細胞の分子特徴を体系的に解明し、以下のことが判明しました。
・ IL-25に依存しない
・ DCLK2優位
・ BMPフィードバックが働かない - マウスモデルでは分からなかった「ヒト特異的な腸免疫回路」を提示しました。
- 炎症性腸疾患(IBD)、アレルギー疾患、寄生虫感染、粘膜免疫研究の新しい基盤になる研究結果です。
[7]Th2サイトカイン:体の免疫細胞である「ヘルパーT 細胞(Th2)」が出す伝達物質(サイトカイン)のこと。
[8]Notch(ノッチ)阻害:細胞の成長や変化をコントロールする「Notchシグナル」という伝達の仕組みを、薬や遺伝子の力で止めること。
背景・目的
腸は、食物・細菌・寄生虫など外界と直接接する臓器であり、免疫応答の最前線です。
マウスを用いた研究から腸管タフト細胞は、腸内の刺激を検知し、免疫細胞を活性化する「司令塔」として働くことがわかっています。しかし、マウスとヒトの免疫系には大きな違いがあるということもわかり始めており、マウスでの研究成果がそのままヒトへ適応できるかは不明です。また、ヒトの腸組織を入手することが難しいこと、ヒト腸管タフト細胞が極めて稀少であることから研究が進みにくく、本研究では、ヒトES細胞・iPS細胞から腸管オルガノイド・ミニ腸を作製し、「ヒトの腸管タフト細胞を試験管内で再現し、分子レベルで解析する」ことを目的としました。
研究概要
本研究では、ヒトES細胞およびiPS細胞から作製した多細胞型機能性腸管オルガノイド(ミニ腸)を用いて、腸管内にごく少数しか存在しないヒト腸管タフト細胞を安定して分化誘導し、その性質を詳細に解析できる研究モデルを初めて構築しました。ミニ腸は、上皮細胞に加えて間質細胞や神経細胞を含み、実際のヒト腸管に近い微小環境を再現しているため、従来の単純な上皮培養系では解析が困難であった腸管タフト細胞の分化や周囲の細胞との相互作用を調べることができます(図1)。このモデルを用いて分化条件を検討した結果、マウスでは腸管タフト細胞を誘導するとされるTh2サイトカインのIL-4およびIL-13だけでは、ヒト腸管タフト細胞は十分に増加せず、Notchシグナル阻害剤DAPTを併用することで初めて強力に誘導されることが分かりました(図2)。さらに、単一細胞RNA解析などによって分子特性を調べたところ、ヒト腸管タフト細胞ではDCLK1ではなくDCLK2が主要なマーカーであり、マウスのタフト細胞が免疫応答を開始する際に中心的な役割を担うIL-25をほとんど発現しないことが明らかになりました。また、マウスで知られているBMPシグナルによるフィードバック制御や、周囲の分泌細胞による側方抑制も、ヒトのミニ腸では認められませんでした(図3)。これらの結果は、ヒト腸管タフト細胞の分化機構と免疫制御が、従来のマウス研究から想定されてきた仕組みとは大きく異なることを示しています。本研究で確立したヒト腸管タフト細胞モデルは、ヒトの腸管粘膜免疫を正確に理解するための新たな研究基盤となり、炎症性腸疾患、食物アレルギー、寄生虫感染症などの病態解明や、ヒトに適した治療法・創薬候補の評価に貢献する成果です。
【図2:Th2 サイトカイン+Notch 阻害でタフト細胞を誘導】
【図3:タフト細胞の分子特徴を単一細胞RNA 解析で解明】
発表論文情報
タイトル:Unique Human Intestinal Tuft Cell Features Revealed by Pluripotent Stem Cell-Derived Mini-Guts
執筆者:塚本雅也1,2、川崎友之1、石渡賢治3、森田英明4、梅澤明弘1、阿久津英憲1
所属:
1)国立成育医療研究センター 再生医療センター
2)大阪公立大学 獣医臨床科学分野
3)東京慈恵医科大学 熱帯医学講座
4)国立成育医療研究センター 免疫アレルギー・感染研究部
掲載誌: Gastro Hep Advances(米国消化器病学会 AGA)
DOI:10.1016/j.gastha.2026.101062
- 本件に関する取材連絡先
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国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
03-3416-0181(代表)
koho@ncchd.go.jp
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