EBPM推進の鍵は研究と政策をつなぐ「中間人材」 ~情報提供・キャリア形成など一貫した「支援パッケージ」が必要~
国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)の成育こどもシンクタンクの千先園子らの研究グループは、日本でEBPM(Evidence-Based Policymaking:エビデンスに基づく政策形成)を実際に進めるために何が必要で、どのような取り組みが有効と考えられているかを、政策担当者・研究者・中間人材(橋渡し人材)の三者の視点から検討しました。
本一連の研究では、まず半構造化インタビュー[1]により、EBPM推進に必要な要因を5つのカテゴリ・25要因として整理しました(図1)。その後、これら25要因と、対応する75の介入策について、政策担当者・研究者・中間人材(橋渡し人材)の三者がどの程度有効と認識しているか、また優先度を明らかにしました。
本研究の結果、「エビデンスを作るだけでは政策には届かない。研究・政策・現場をつなぐ中間人材(橋渡し人材)と、人材育成や制度的支援など組織横断的な仕組み(中間機能)が重要である」ということが分かりました。
本研究は成育医療・母子保健政策の領域で検証を行いましたが、研究と政策をつなぐという課題は特定の分野にとどまりません。他省庁や公共政策の幅広い領域に共通する課題であり、「中間人材(橋渡し人材)」や「中間機能」の重要性は分野を超えて応用できると考えられます。
本一連の研究は、国際学術誌「Health Research Policy and Systems」に掲載されました。
[1] 半構造化インタビュー:事前に決めた質問をベースにしながら、相手の回答に合わせて質問を変え展開する対話形式の調査方法。

【図1:EBPM推進に必要な要因を5カテゴリ】
プレスリリースのポイント
- 政策担当者・研究者・中間人材(橋渡し人材)の三者の視点から、日本でEBPMを進めるために必要な要因と有効な取り組みを検討しました。
- EBPMを推進に必要な要因を、行政環境、組織間連携、研究環境、政策手法、中間人材開発の5つのカテゴリに大別しました。さらに、25の要因に細分化しました。(表1)
- 本研究により、政策担当者はエビデンスを「説明責任の根拠(Accountability)」として、研究者は「科学的な確からしさ(Scientific Validity)」として認識していることが分かりました。こういった認識の違いや定義のズレが、政策と研究の間に溝を生む一因となっており、そこを埋める「中間人材(橋渡し人材)」がEBPMを推進するために重要であると考えられます。
- 組織横断的な仕組み(中間機能)が重要であることが示されました。こうした視点は、分野を超えて応用できる可能性があります。

【表1:EBPM推進する5大カテゴリと25の要因】
背景・目的
日本では2017年以降、EBPMが国の取り組みとして推進されていますが、実際の政策形成の現場で根付かせていくことは容易ではありません。EBPMの重要性は国内外で指摘されてきた一方で、日本の制度・行政・研究環境という文脈の中で「EBPMをどう進めるか」を実際の関係者の視点から具体的に示した研究は限られていました。そこで本研究は、成育医療・母子保健政策領域を事例として、EBPM推進に必要な要因と、それを実現する具体的な介入策を、政策担当者・研究者・中間人材の三者の視点から明らかにすることを目的としました。
研究概要
研究➀(質的研究)
- 政策担当者・研究者・中間人材(省庁への人事交流経験者)への半構造化インタビューを実施し、EBPM推進に必要な要因を5カテゴリ・25要因として体系的に整理しました。(図1、表1)。
- 立場による「認識の違い」がインタビューで明らかになりました。政策担当者はエビデンスを「説明責任の根拠(Accountability)」として、研究者は「科学的な確からしさ(Scientific Validity)」として捉えており、同じ言葉でも意味するものが異なりました。この定義のズレや、両者をつなぐ人材の不在が、研究と政策の間に溝を生む一因になっていました。
研究➁(量的調査)
- 研究➀で整理した25要因と、それに対応する75の介入策について、政策担当者、研究者、中間人材の三者がどの程度有効と認識しているかをアンケートによる横断調査で検討。
- 154名に調査を依頼し、55名が回答(政策担当者15名、研究者25名、中間人材15名)。
- 25要因の有効性認識の平均スコアは3.91〜4.53(全体平均4.22/5点満点)で、多くの要因が高く評価され、研究➀で抽出した要因の実践的重要性が支持されました。
<有効性の認識が高かった上位の要因>
最も有効とされたのは「活用可能なエビデンス・データの整理と発信」(平均4.53)。次いで「政策過程・EBPM・研究に関する知識・スキルの向上」(4.37)、「予算・人員・時間の確保」(4.36)。
<介入策は、大きく4つに整理>
- エビデンス生成・活用を支える環境整備(研究者が使いやすいデータ基盤の整備、公的統計の活用しやすさ向上など)
- 持続的な分野横断連携(政策担当者・自治体・研究者・現場が、本音で対話できる「緩衝地帯」のような場づくりや、自治体間での相互参照・好事例共有など)
- EBPM関連スキルの向上(研修体制、教育コンテンツなど)
- 中間人材への構造的支援(人事交流参加者が多様な現場と双方向に関わる仕組み、事前ガイド、経験を活かせるポスト・人事評価制度、明るいキャリアパスの提示など)
<政策担当者・研究者・中間人材の三者が重視するポイント>
- 「活用可能なエビデンス・データの整理と発信」は、三者が共通して重要視しました。
- それぞれが担当する政策過程に関心が集まり、政策担当者は合意形成・政策実施、研究者は現状把握・政策評価、中間人材は全工程に課題意識を向ける傾向がみられました。
- この傾向は、EBPM推進には、政策過程全体を「見える化」して共有することや、単一の視点ではなく各立場の役割・制約・優先順位を踏まえた実装戦略が必要であること、そして全工程を俯瞰する中間人材の役割の重要性を示唆しています。
今後の展望・発表者のコメント
- 本研究で得られた知見をもとに、中間人材や中間組織が担う橋渡し機能を体系的に可視化し、広く社会に展開できるよう努めてまいります。
- 研究と政策の橋渡しという課題は分野を超えて共通するため、今後は対象領域を広げて検証を進め、分野横断で活用できる橋渡しの仕組みづくりに繋げていきます。
- 属人的な能力だけに依存しない形で中間人材を育成・支援するため、基礎知識のインプット、現場で孤立しないためのサポート、キャリア形成の支援などを「支援パッケージ」として整備することを目指します。
発表論文情報
研究➀
タイトル:Identifying factors for promoting evidence-based policymaking in Japan with the perspective of policymakers, researchers and knowledge brokers: a semistructured interview
執筆者:Arimura Y, Yanagawa Y, Kiuchi S, Matsuyama H, Uehata H, Suto M, Tomori H, Takehara K, Sensaki S.
掲載誌:Health Research Policy and Systems, 2025; 23(1):48
DOI:10.1186/s12961-025-01320-0
研究➁
タイトル:Perceived effectiveness of factors and intervention strategies for promoting evidence-based policymaking in Japan: A cross-sectional survey among policymakers, researchers, and knowledge brokers
執筆者:Arimura Y, Yanagawa Y, Kiuchi S, Suzuki C, Matsuyama H, Wakabayashi H, Tomori H, Takehara K, Sensaki S.(Health Research Policy and Systems)
DOI: 10.1186/s12961-026-01501-5
- 本件に関する取材連絡先
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国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
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