耐性菌流行下、生後2か月未満の重症百日咳患者を、ST合剤で治療~乳児を守る"母体ワクチン"の必要性を示唆~
国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)感染症科の幾瀨樹、大宜見力らの研究グループは、マクロライド系抗菌薬に耐性を持つ百日咳菌(MRBP)[1]の流行中に集中治療を要した生後2か月未満の重症百日咳6名(新生児2名を含む)に、早期乳児には禁忌とされているトリメトプリム・スルファメトキサゾール(抗菌薬 TMP-SMX、ST合剤)を投与した治療経過と、母親の妊娠中の百日咳含有ワクチン接種歴について研究しました。
生後2か月未満の乳児(日本国内では生後28日未満の新生児)に禁忌であるST合剤(抗菌薬)を投与する症例は世界的に非常に限られていますが、今回の研究では6名の乳児全員で14日間にわたるST合剤の投与を完了し、退院されました。また、ビリルビン脳症[2]を含む重大な副作用も認められませんでした。本研究は、耐性菌が広がる中での治療選択肢として重要な情報となります。また、母親の妊娠中の百日咳含有ワクチン接種については、母親5名の接種歴が確認でき、いずれの母親も接種していませんでした。百日咳は、妊娠中のお母さんへのワクチン接種がありますが、必要な情報が届き、希望する方が接種を受けられる体制整備が重要と言えます。
本研究成果は、国際学術誌「Journal of the Pediatric Infectious Diseases Society」に2026年7月付で掲載されました。
[1] 百日咳菌:百日咳は、百日咳菌への感染で引き起こされる、呼吸器疾患。激しい咳が長期間続くことが特徴で、乳幼児では肺炎や脳症など重症化し、命に関わるリスクもある。近年、マクロライド系抗菌薬に耐性を持つ菌が世界的に増えていて、深刻な問題になっている。
[2] ビリルビン脳症:重い黄疸によりビリルビンが脳に影響する重篤な合併症。ST合剤(抗菌薬)は新生児では慎重な使用が求められます。

【グラム染色された百日咳菌(本研究の症例より採取された気管内吸引物)】
プレスリリースのポイント
- 百日咳はマクロライド系抗菌薬が治療の第1選択薬ですが、マクロライド系抗菌薬が効きにくいマクロライド耐性百日咳菌(MRBP)が、世界をはじめ日本国内でも広がっており、第2選択薬のST合剤(抗菌薬)の使用が考慮されます。
- 生後2か月未満の乳児(日本国内では生後28日未満の新生児)へのST合剤の投与は、ビリルビン脳症などの重大な副作用が懸念されるため、禁忌とされています。そのため、重症例においてST合剤を使用する際には、投与前の赤ちゃんの血中ビリルビン濃度の測定や、投与中の体調観察・モニタリングなど慎重な対応が求められます。
- 本研究では、マクロライド耐性百日咳菌(MRBP)が流行している中、集中治療を要した生後2か月未満の重症百日咳6名にST合剤を使用した症例を報告しました。いずれの症例でもビリルビン脳症は認められず、退院されました。本研究は、耐性菌が広がる中での治療選択肢として重要な情報となります。
- ただし、今回は6例のみの検討で、一般的な安全性・有効性を結論づけるものではありません。
- 妊娠中の百日咳含有ワクチンの接種歴が確認できた母親は5名で、いずれも未接種でした。百日咳に対しては、胎盤を通じて赤ちゃんに抗体を移行させ、生後間もない時期に感染から赤ちゃんを守る、母体ワクチンがあります。妊娠中に必要な情報が届き、希望する方が適切な時期に接種を受けられる体制整備が求められます。
- 本研究は、当センターの倫理審査委員会の承認の下で実施いたしました。
研究の背景
2023年以降、マクロライド系抗菌薬が効きにくいマクロライド耐性百日咳菌(MRBP)が世界的に増加しています。日本でも2025年7~9月に検出された百日咳菌の79.5%で、マクロライド耐性に関連する変異が確認され、マクロライド系抗菌薬の代わりとなる治療薬が必要となっています。ガイドラインでは、ST合剤(抗菌薬)が代替薬の一つとして示されていますが、新生児を含む生後2か月未満の乳児では、黄疸やビリルビン脳症が副作用として懸念され、慎重な使用が求められています。乳児層の重症百日咳に対するST合剤の安全性に関する臨床データは限られており、実際に使用した場合の治療経過に関するデータが求められていました。
研究概要
- 対象:2025年にPICU(小児集中治療室)に入院した生後2か月未満の重症百日咳の乳児6名および、その母親6名。
- 方法:マクロライド耐性百日咳菌(MRBP)が疑われた乳児6名に、ST合剤を14日間投与しました。新生児では保護者の同意と院内手続きを経て、皮膚が黄色くなっていないか(黄疸)を確認し、血液検査を行うとともに、けいれんや意識の変化など、神経に関わる症状がないかを慎重に確認しました。
- 検査: 3例から百日咳菌を分離し、いずれもMRBPであることを確認しました。
主な結果

発表者のコメント
本研究は、マクロライド耐性百日咳菌(MRBP)が広がる状況で、生後早期の重症百日咳に対するST合剤(抗菌薬)の使用症例を示したものです。生後早期でもST合剤(抗菌薬)を安全に使用できる可能性が示唆されるものの、今後は、ST合剤の有効性と安全性を確かめるため、治療法をそろえた多施設共同研究が必要です。また、薬剤感受性試験と遺伝子解析は百日咳菌を分離できた3例でのみ実施されました。マクロライド耐性百日咳菌(MRBP)の検査結果は治療方針を決定する時点ではタイムリーに得られないことが多く、今MRBPを迅速に見分けられる検査の開発が必要です。
本研究で接種歴を確認できた5例の母親はいずれも百日咳含有ワクチンの接種歴はなく、その理由として情報提供の欠如・遅れ、国産のワクチンの供給不足などが挙げられました。国内における妊娠中の百日咳含有ワクチンの接種については、情報提供、製剤の種類、供給体制など多くの課題があります。接種を希望する方が必要な情報を得て、適切な時期に接種できる体制の整備が求められます。
発表論文情報
論文タイトル:Trimethoprim-Sulfamethoxazole Treatment for Severe Pertussis in Infants Younger Than 2 Months During a Macrolide-Resistant Bordetella pertussis Outbreak: A Case Series
著者:幾瀨樹1)、松井俊大1)、山田全毅1)、庄司健介1, 2)、加藤維斗3)、加藤宏樹4)、松本正太朗4)、島袋林秀5)、大塚菜緒6)、大宜見力1)
所属:
1) 国立成育医療研究センター 感染症科
2) 国立成育医療研究センター 教育研修センター
3) 国立成育医療研究センター 細菌検査室
4) 国立成育医療研究センター 集中治療科
5) 国立成育医療研究センター 総合診療部
6) 国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所 細菌第二部第一室
掲載誌:Journal of the Pediatric Infectious Diseases Society
DOI:https://doi.org/10.1093/jpids/piag046
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