新生児スクリーニングで見つかったムコ多糖症乳児に対する早期臍帯血移植の有効性を確認~発症前の介入と酵素補充療法の併用が認知機能とQOL維持に貢献~
本報告は、米国医師会雑誌のオープンアクセスジャーナルである「JAMA Network Open」にて、米国中部時間2026年5月4日午前10:00(日本時間2026年5月5日午前0:00)に公開されました。
[1]新生児スクリーニング:発症前に生まれつきの病気を見つけるための血液検査のこと。
[2]ムコ多糖症:細胞内でのムコ多糖の分解に必要な酵素が生まれつき足りないために、全身の細胞にムコ多糖が蓄積する先天代謝異常症のこと。よく見られる症状は、発達の遅れ、低身長、骨変形、特異な顔つき、固い関節、お腹の膨れ(肝脾腫)、臍・鼠径ヘルニア、心弁膜症(心雑音)、中耳炎、難聴などです。
[3]前処置:新しく移植する細胞が患者さんの体内でしっかり育つよう事前に抗がん剤や放射線を使用する治療のこと。
【図:ムコ多糖症の症状進行を防ぐ、先制的な新しい治療アプローチ】プレスリリースのポイント
- 新生児スクリーニングによって発症前にムコ多糖症を診断し、生後1年未満という早期に、体への負担を軽減した臍帯血移植を安全に実施できることを示しました。
- 重症のムコ多糖症II型に対して、臍帯血移植と脳室への酵素補充療法(ICV-ERT)を組み合わせた治療を、発症前の乳児に実施した世界初の報告です。
- この先制的な治療戦略により、認知機能を維持するとともに、生涯にわたる頻回な点滴通院を減らし、子どもたちの良好なQOL(生活の質)を保つことができると期待されます。
背景・目的
ムコ多糖症(I型およびII型)は、体内の特定の酵素が生まれつき欠損しているために、徐々に脳や全身の臓器に障害が進行する指定難病です。臍帯血移植などの造血幹細胞移植は病気の進行を抑える有効な治療法ですが、従来の診断方法は「症状が出てから」行われるため、治療を開始した時点ですでに中枢神経系(脳)への不可逆的なダメージが進行してしまっていることが大きな課題でした。 近年、新生児スクリーニングによって無症状のうちに病気を発見できるケースが増えてきました。しかし、発症前の乳児に対して、重篤な合併症を避けつつどのように移植や治療を進めるべきか、明確な指針や成功例の報告が求められていました。
研究概要
新生児スクリーニングにより当センターで診断された4名のムコ多糖症(I 型2名、重症II型2名)の乳児を対象としました。全例において生後2ヶ月から点滴による酵素補充療法を開始し、生後7〜11ヶ月の段階で「低毒性前処置」を用いて臍帯血移植を実施しました。 さらに、重症II型の2名については、移植だけでは中枢神経系の保護が不十分となることが知られているため、頭部(Ommaya リザーバー)から脳室内に直接酵素を注入する「脳室酵素補充療法(ICV-ERT)」を組み合わせて実施しました。 その結果、移植後の造血機能の回復は速やかで、重篤な合併症なく全例が生存しています。さらに、移植後の神経発達検査において良好な認知機能が維持されていることが確認されました。
発表論文情報
タイトル: Newborn Screening-Enabled Early Cord Blood Transplantation for Mucopolysaccharidosis
執筆者: Hirotoshi Sakaguchi1, Motomichi Kosuga2, Tetsumin So2, Yoshihiro Gocho1,Sayaka Ono1, Shiho Yasue1, Shoji Mizuno1, Sonoko Minato1, Toru Higuchi1, Yuka Kim1,Masahiro Sekiguchi1, Masaki Yamada3, Takao Deguchi1, Hideki Ogiwara4, Kenji Kurosawa2,Torayuki Okuyama5, Akihiro Iguchi1, Daisuke Tomizawa1, Kimikazu Matsumoto1
所属機関:
1) 国立成育医療研究センター 小児がんセンター
2) 国立成育医療研究センター 遺伝診療センター
3) 国立成育医療研究センター 小児内科系専門診療部 感染症科
4) 国立成育医療研究センター 小児外科系専門診療部 脳神経外科
5) 埼玉医科大学 ゲノム医療科
掲載誌: JAMA Network Open (IF 9.7)
DOI:10.1001/jamanetworkopen.2026.10243
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