世界初・斜視が発生する日としない日が交互に現れる「周期性斜視」発症の分子機構を提唱
その結果、本症例においてX染色体上のOPHN1遺伝子バリアント1が周期性斜視の原因である可能性を見出しました。また、本OPHN1バリアントが、概日リズムに伴って変動するイノシトールリン脂質PI4PおよびPI5Pとの結合する能力を強めていることを明らかにし、世界で初めて周期性斜視の発症に関わる分子機構を提唱することに成功しました(図1)。
本研究は、未だ多くの謎が残されている周期性斜視ならびに一般的斜視の発症メカニズムの理解を深めるうえで重要な知見を提供します。
本研究成果は、 Scientific Reports 2026に掲載されました。
[1]バリアント:遺伝子にみられる変化のこと。ヒトが生まれつき有している遺伝子には個人個人でばらつきがあり、病気を引き起こすことのない遺伝子変化が多数存在します。病気を起こすかどうかは別として、遺伝子の変化をすべてバリアントと呼びます。
【図1:OPHN1バリアントによる周期性斜視発症モデル】周期性斜視(下段):OPHN1(K306N)バリアントは、PI4PおよびPI5Pとの結合能力が強まっているため、概日リズムに伴ってPI4PおよびPI5P量が上昇すると膜への細胞内局在変化を示し、RhoGAP活性を十分に発揮できなくなる。その結果、神経生理学的機能障害が生じ、周期性斜視を発症する。
プレスリリースのポイント
- 本OPHN1遺伝子バリアントは、知的障害のない一部の周期性斜視の原因である可能性を見出しました。
- 本OPHN1バリアントが、PH領域におけるリン脂質結合に関与するポケットに位置することを明らかにしました。
- 本OPHN1バリアントが、概日リズムに伴って変動するイノシトールリン脂質PI4PおよびPI5Pとの結合能力を強めることを明らかにしました。
背景・目的
斜視は両眼視機能の異常を引き起こし、視覚の質を損なう一般的な眼疾患です。斜視は小児と成人の両方に発生し、人種差はあるものの、国内外を問わずその頻度は2.1~3.6%と高い水準です。周期性斜視は極めて稀な斜視形態であり、斜視患者さんの約3,500人に3人の割合で発生します。罹患患者さんでは、斜視症状の有無が48時間または24時間の周期で交互に現れます。しかしながら、斜視の原因については、遺伝的要因と環境要因の双方が提唱されているものの、未だ不明な点が多く残されています。本研究では、特殊な周期性斜視に着目し、その遺伝的要因の特定と病態発症メカニズムの解明を目的としました。
研究概要
患者さん(8歳男児)と母親を対象に末梢血を採取し、DNAを抽出し、全エクソームシークエンシングによる原因遺伝子の特定を試みました。また、検出された遺伝子バリアントをサンガー法で確認しました。OPHN1遺伝子は神経細胞の働きの調整に必須であるRho GAPタンパク質を作る役割を持っており、OPHN1遺伝子を欠失するマウスは誕生前に死亡してしまいます。OPHN1遺伝子の機能を部分的に欠損する患者さんは、知的障害、筋緊張低下、発達遅延および認知遅延、早期発症のてんかん、異常行動、特徴的な顔貌、運動協調障害を特徴とする「OPHN1 症候群」となります。興味深いことにOPHN1症候群の患者さんは高頻度で斜視を併発します。
一方、本OPHN1(K306N)遺伝子バリアントの患者さんは、知的障害は無く、周期性斜視のみを示しました。そこで本OPHN1遺伝子バリアントが周期性斜視の原因遺伝子ではないかと考えました。まず、Google DeepMind社が開発したタンパク質構造予測AIを用いて、OPHN1のPH領域の構造解析を行いました。その結果、野生型OPHN1と比較して、本OPHN1(K306N)バリアントは、PH領域におけるリン脂質結合に関与するポケットを拡大していることが明らかとなりました。次に、野生型OPHN1と本OPHN1(K306N)バリアントについて、概日リズムに伴って変動するイノシトールリン脂質PI4PおよびPI5Pとの結合能力を検討しました。その結果、本OPHN1バリアントは、野生型OPHN1と比較して、PI4PおよびPI5Pとの結合能力を強めていることが明らかとなりました。これらの結果を基に、周期性斜視の発症モデルを提案しました(図1)。
発表論文情報
タイトル:A novel OPHN1variant associated with cyclic strabismus but in the absence of OPHN1syndrome
執筆者:Sachiko Nishina(1), Satoshi Kofuji(2), Keiko Matsubara(1), Hazuki Anzai(1),Kyoko Hirakata(3), Yuya Hanazono(2), Yoshimi Okamoto-Uchida(2), Jun Hirayama(4),Nobutoshi Ito(2), Maki Fukami(1), and Hiroshi Nishina(2)
所属:
(1)国立成育医療研究センター
(2)東京科学大学総合研究院難治疾患研究所
(3)母心堂平形眼科
(4)文京学院大学
掲載誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-026-48129-7
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