妊娠中の胎児治療の標準化へ前進 超希少疾患「胎児心室頻拍」の実態を解明 ~世界に先駆けて胎児心疾患レジストリ参加77施設への全国調査を実施~
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、以下:国循)の研究振興部 三好剛一と、国立成育医療研究センター(東京都世田谷区、理事長:五十嵐隆)の循環器科 金基成らを中心とした研究グループは、胎児の心拍数が速くなりすぎる不整脈の中でも希少疾患である「胎児心室頻拍」(Ventricular Tachycardia:以下VT)について、世界に先駆け、胎児心疾患情報レジストリ(共有データベース)参加施設77施設の協力を得て全国調査研究を行い、その実態から胎児治療の有効性と安全性を解明しました。本研究では、胎児VTの4割は危険な不整脈(心室頻拍・心室細動)が起きやすくなる「QT延長症候群(Long QT syndrome:以下LQTS)」という遺伝性の不整脈によるものでした。LQTSを伴う場合には胎児VTの発症時期が早く、出生後も治療が難しく、神経の発達が遅れやすいことがわかりました。一方で、胎児治療の有効性は高いことから、妊娠32週までに胎児VTが発症した場合には、LQTSを想定して、積極的に胎児治療をするべきと考える結果となりました。

超希少疾患ゆえに実態が長らく不明
胎児心室頻拍(VT)は、50万妊娠に1例と胎児頻脈性不整脈(心拍数が速くなりすぎる不整脈)の中でも超希少疾患であることから、その実態は長らく不明とされてきました。VTは他のタイプの不整脈と異なり、突然死の危険性を伴うため早産での分娩を選択せざるを得ず、出生時期が早ければ早いほど管理に難渋することが問題となっていました。そのため、十分なエビデンスがない中で胎児治療が試みられている状況でした。
調査研究による実態解明で胎児治療の標準化へ前進
目的
- 胎児VTの出現状況や予後などの実態を明らかにすること
- 胎児VT診断における特徴的な所見を特定すること
- 胎児治療の有効性および安全性を確認すること
調査方法
2014年1月~2023年12月に胎内でVTと診断された症例を対象として、胎児心疾患レジストリの参加施設77施設へ一次調査を行い、回答が得られた施設に対して二次調査を実施。
研究結果
- 胎児VTを発症した妊娠週数:QT延長症候群の胎児では、全例が妊娠32週までに発症。
- 胎児治療:QT延長症候群の胎児8例に胎児治療がされ、大部分の症例で第一選択は硫酸マグネシウム、他薬剤併用もされており、全体として87.5%(7/8)の奏効率でした。
※胎児治療に伴う副作用(主に硫酸マグネシウムによる全身倦怠感)を半数で認めましたが、リドカインによるせん妄(一時的に頭が混乱した状態)で投薬が中止となった1例を除き重篤なものは認めませんでした。 - 出生後:全例でVTが出現し、LQTSの児では、薬物治療が効きにくいことが多く、ペースメーカー留置や植え込み型除細動器などの治療を必要としました。長期的には、LQTSの児では、神経発達の遅れを生じやすいことがわかりました。
ガイドラインの作成により、診断・治療の標準化へ
日本胎児心臓病学会を中心に「胎児不整脈診療ガイドライン」の作成を、国循三好を筆頭に進めており、本研究成果も掲載することで国内外の医療現場での実装を進める予定です。これにより胎児VTの診断・治療の標準化、胎児治療時の母児の安全性の担保のみでなく、出生後の児の継ぎ目のないフォローアップにもつながると考えています。
発表論文情報
著者:Takekazu Miyoshi, Ki-Sung Kim, Nobuhiko Kan, Eriko Shimada, Yoshiaki Kato and Yasuki Maeno
題名:Transplacental treatment of foetal ventricular tachycardia: a Japanese, nationwide survey
掲載誌:European Heart Journal
DOI:10.1093/eurheartj/ehag111
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