世界初 成人FPIESにおける「胃粘膜の異常」を分子レベルで解明 ~症状のない時期にも持続する"過敏な状態"が明らかに~
FPIES は、特定の食物摂取後に数時間を経て、強い腹痛、嘔吐、腹部膨満、下痢などの消化管症状を呈する非IgE1依存性の食物アレルギーです。皮膚症状や呼吸器症状を伴わず、血液検査(IgE抗体)や内視鏡検査でも明らかな異常を認めないことが多いため、成人例では機能性消化管疾患や急性胃腸炎と診断されやすく、FPIESの診断に至るまで長期間を要するケースが少なくありません。
本研究成果は、国際的なアレルギー専門誌「Allergy」に掲載され、成人FPIESの病態理解を深めるとともに、将来的な非侵襲的バイオマーカー2開発や、診断および病型の層別化への応用が期待されます。
[1]IgEとは、主にアレルギー反応や寄生虫感染に関与する抗体(免疫グロブリンというタンパク質)の一種のこと。
[2]非侵襲的バイオマーカーとは、血液、尿、唾液、画像診断(MRI等)を用いて、身体に負担(痛みや組織損傷)をかけずに疾患の兆候を捉える指標のこと。

[3]神経シグナルの亢進とは、神経系において信号(電気信号や神経伝達物質)の伝達活動が通常よりも過剰に活発になり、特定の神経回路が興奮状態にあること。
[4]獲得免疫関連経路とは、T細胞やB細胞などのリンパ球が、特定の病原体やがん細胞を特異的に認識・記憶し排除する後天的な免疫システムの一連のメカニズムのこと。
[5]平滑筋シグナルとは、血管、消化管、気管支などの平滑筋細胞が収縮・弛緩する際、神経やホルモン等の外部刺激を受けて細胞内で伝達される分子機構のこと。
プレスリリースのポイント
- 成人のFPIESにおいて、症状のない非発作期であっても、胃粘膜に分子レベルでの異常が存在することを初めて明らかにしました。
- 内視鏡や病理検査で異常を認めないにもかかわらず、神経シグナルの活性化と、獲得免疫関連経路の相対的な活性低下が示唆されました。
- FPIESでは発作時に小腸の拡張や浮腫が報告されている一方で、本研究により、非発作時においては胃が感覚・制御の起点を担う器官として重要な役割を果たしている可能性が示唆されました。
- 本成果は、将来的な非侵襲的バイオマーカー開発につながる可能性があります。
背景・目的
成人の食物蛋白誘発性胃腸炎(FPIES)は、内視鏡や病理検査で異常が認められないことが多く、診断や病態理解が困難な疾患です。特に成人例では、非発作期における消化管粘膜の状態についてほとんど分かっていませんでした。
本研究は、症状が出ていない時期の胃および十二指腸粘膜を分子レベルで解析することで、成人FPIESの病態を明らかにすることを目的としました。
研究概要
本研究では、食物経口負荷試験(OFC)を施行した成人FPIES患者さん31例を対象とし、OFC陽性例と陰性例の臨床像を比較しました。
さらに、特定の研究期間中に連続して組み入れられた9例(成人FPIES 症例非発作時5例、自然耐性獲得例4例)について、胃および十二指腸生検組織を用いてmRNAシーケンス解析を行い、遺伝子発現、細胞構成、転写因子活性を統合的に解析しました。
この解析により、内視鏡・病理学的に正常と判断される粘膜においても、分子レベルでは病態に関連する変化が存在するかを検証しました。
発表論文情報
英題:Clinical and Mucosal Transcriptomic Profiling of Adult Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome
邦題:成人食物蛋白誘発性胃腸炎における臨床像と消化管粘膜の遺伝子発現解析
執筆者:
渡辺翔1,2、佐藤綾子3、 関寛人1、根木真理子4、矢内常人1、 山本貴和子2、福家辰樹2、大矢幸弘5, 6 、野村伊知郎2,7
所属:
1) 草加市立病院 消化器内科
2) 国立成育医療研究センター アレルギーセンター
3) 東京都立墨東病院 消化器内科
4) 草加市立病院 病理診断科
5) 名古屋市立大学大学院医学研究科 環境労働衛生学分野
6) 藤田医科大学 ばんたね病院 総合アレルギー科
7) 国立成育医療研究センター 好酸球性消化管疾患研究室
掲載誌:Allergy
DOI:10.1111/all.70233.
- 本件に関する取材連絡先
-
国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
03-3416-0181(代表)
koho@ncchd.go.jp
月~金曜日(祝祭日を除く)9時〜17時
※医療関係者・報道関係者以外のお問い合わせは、受け付けておりません。



