鶏卵の早期摂取推奨後も、鶏卵アレルギーの大きな減少は認められず~食物アレルギーの最も多い原因食物が鶏卵からナッツ類に変化~
国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区 理事長:五十嵐隆)救急診療部の大西志麻、植松悟子、臨床研究センター朴慶純、アレルギーセンターの谷口智城、福家辰樹、山本貴和子らの研究グループは、2017~2021年にかけて離乳食における鶏卵早期摂取の提言・推奨が導入された前後で、食物アレルギーで救急外来を受診した患者数や症例にどのような変化があったのかを検討しました。
本研究では、2015年から2024年までの10年間に当センターの救急外来を受診した約2,800件の食物アレルギー症例を後ろ向きに解析しました。その結果、鶏卵の早期摂取が推奨された後(2022年以降)も鶏卵アレルギーの有意な減少は見られず、食物アレルギーによる救急外来の受診数も10年間で大きな変化は認められませんでした。その一方で、ナッツ類(クルミ、カシューナッツなど)のアレルギーが急増し、食物アレルギーで救急外来を受診する原因食物の内訳には大きな変化があることが明らかになりました。
本研究成果は、イギリスのアレルギー学会雑誌「Clinical Experimental and Allergy」に掲載されました。
【グラフ1:食物アレルギーと鶏卵アレルギーにおける救急外来受診数の推移】
プレスリリースのポイント
- 本研究では、2015年~2024年の10年間に国立成育医療研究センターの救急外来を食物アレルギーで受診した約2,800件を対象に調査しました。
- 日本で推奨されている鶏卵の早期摂取の推奨が導入された後(2022年以降)も、鶏卵アレルギーで救急外来を受診する数に有意な減少は見られませんでした。(グラフ1)
- 食物アレルギーによる救急受診数は、2015年~2024年の10年間で横ばいでした。(グラフ1)
- 一方で、ナッツ類による食物アレルギーの救急受診は急増しており、現行の食物アレルギー予防戦略では対応が十分でないことが示唆されました。(グラフ2)
【グラフ2:食物アレルギーで救急外来を受診した患者さんの原因食物の推移】
研究の概要
研究方法
対象期間:2015年1月~2024年12月の10年間
対象患者:国立成育医療研究センターの救急外来を受診した18歳未満の小児
対象数:約2,800件の食物アレルギーによる救急受診を対象
解析:食物アレルギー、アナフィラキシー、口腔アレルギー症候群で受診した症例
を解析(※経口免疫療法に関連する症例は除外)
主な結果
- 食物アレルギーによる救急受診数は10年間でほぼ横ばい(グラフ1)
- 死亡例は認められませんでした
- 食物アレルギーの原因食物の変化(グラフ2)
・2015年:卵・小麦・牛乳が主因
・近年:ナッツ類(クルミ、カシューナッツ、アーモンドなど)が最多の原因となる - 2015~2017年と比較して2022~2024年では
・ナッツ類(クルミ、カシューナッツ、アーモンドなど)による食物アレルギーを発症する可能性が高い(アレルギーを発症する"オッズ"が約4倍)
・ 牛乳アレルギーは有意に減少
・卵アレルギー全体では大きな減少は認められなかった。ただし、3歳以上の年長児では軽度の減少傾向
考察
本研究から、鶏卵の早期導入推奨が、少なくとも救急受診レベルの鶏卵アレルギーを明確に減少させたとは言えないことが示唆されました。乳幼児期における鶏卵アレルギーが減少していないことから、ガイドラインが十分に社会に浸透していない可能性や、卵黄からの早期導入となって、卵白導入が遅くなっている可能性もあり、導入初期には一時的にアレルギー症状が表面化する可能性も考えられます。
一方で、ナッツ類アレルギーの急増については、日本の乳幼児食での摂取機会の少なさ、食生活の欧米化、環境中へのナッツ抗原暴露などが関与している可能性があります。
本研究の意義
本研究は、アジアにおいて初めて、早期鶏卵摂取の推奨が示された前後の小児食物アレルギー救急外来の受診動向を10年間にわたり検討した実臨床データです。軽症から重症までを含むすべての救急症例を対象としたことで、食物アレルギー全体の負担や原因食物の変化を包括的に評価できました。
今後の展望
今回の結果は、以下の3点が重要であることを示しています。
- 早期食物導入の推奨だけではすべての食物アレルギー発症を抑制できない
- 家庭や医療者へのさらなる啓発や支援が必要
- ナッツ類など新たに増加しているアレルゲンへの対策が重要
今後は、地域レベルや全国規模での臨床疫学研究を進め、より効果的な予防戦略の確立を目指します。
発表論文情報
論文タイトル:Trends in Emergency Department Visits for Food Allergy in Children Before and After Early Introduction Guidelines in Japan: A 10-Year Retrospective Study from a National Tertiary Centre
雑誌名:Clinical Experimental and Allergy
DOI: 10.1111/cea.70208
著者:大西志麻(筆頭著者)1、植松悟子1、谷口智城2、朴慶純3、福家辰樹2 、山本貴和子(責任著者)2
所属:
1) 国立成育医療研究センター 救急統括部
2) 国立成育医療研究センター アレルギーセンター
3) 国立成育医療研究センター 臨床研究センター
- 本件に関する取材連絡先
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国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
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