日本人におけるナッツ類アレルギーを引き起こす摂取量が明らかに ~急増するナッツ類アレルギーは近年、より少ない量で症状が出る傾向に~
国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)のアレルギーセンター久保田仁美、福家辰樹、山本貴和子らの研究チームは、当センターで2013年~2023年の間に行われた食物経口負荷試験の結果から、ピーナッツ、カシューナッツ、クルミアレルギーの患者において、どのくらいの量を摂取すると、どの程度の割合でアレルギー症状がでるのかを検証する「誘発閾値(ED: eliciting dose[1])解析」を行いました。
その結果、ED05値(アレルギー患者集団の内、5%の人でアレルギー症状が引き起こされる量)はピーナツが4.88mg、カシューナッツが0.53mg、クルミが4.37mgであることが明らかになりました。
さらに、2013~2019年と2020年~2023年のED05値を比較したところ、クルミについては2019年以前では14.94mgでしたが、2020年以降では3.26mgに大幅に減少していて、以前より少ない摂取量でアレルギーが引き起こされることが分かりました。ピーナッツとカシューナッツでは期間による閾値の有意な減少は認められませんでしたが、減少傾向は見られました。
本研究結果は、米国免疫アレルギー学会国際雑誌The Journal of Allergy and Clinical Immunology: Globalに掲載されました。
[1] ED値:食物アレルギーのある人が特定のアレルゲン(抗原)を摂取した際に、アレルギー症状が引き起こされる最小の量のこと。ED05値は、食物アレルギー患者集団のうち5%の人に症状が出る量。食品安全に関するリスク評価の国際的な専門家会合でアレルゲン含有量の参照用量として採用され、症状を引き起こすリスクが低いとされる曝露量の目安とされているが、ED05は単に安全という意味ではなく、あくまで低リスクの目安であることに注意が必要。

【表:各ナッツ類のアレルギーを引き起こす摂取量(ED05 値)の変化】

【図:クルミに対するアレルギー症状の出る量の検討】
プレスリリースのポイント
- 2013年~2023年の10年間に国立成育医療研究センターの患者さんに対して行った1,275件のピーナッツ・カシューナッツ・クルミ経口負荷試験データを用いて、ナッツ類それぞれのED05値を算出したところ、ピーナッツ4.88 mg、カシューナッツ0.53 mg、クルミ4.37 mgと判明しました。
- 2013~2019年と、2020~2023年の期間でED05値を比べたところ、アレルギーを引き起こす摂取量は低下傾向にありました。これは、以前より少ない摂取量でアレルギー症状が引き起こされる可能性があることを示しています。
- 特にクルミでは、2019年以前は14.94mg(95%CI:9.60-23.2)でしたが、2020年以降では3.26mg(95%CI:2.04-5.20)と有意に減少していて、日本におけるクルミアレルギー患者さんの増加や、重症化などの変化が影響している可能性があります。なお、ピーナッツとカシューナッツでは有意差は認められませんでした。
- 主要アレルゲン成分であるAra h 2(ピーナッツ)、Ana o 3(カシューナッツ)、Jug r 1(クルミ)に対する特異的IgE値が高いほど、ED値が低い傾向(少ない摂取量でアレルギー反応が出やすい傾向)が示されました。
- 高IgE群(50 kUA/L以上)でのED05値は、ピーナッツ3.20mg、カシューナッツ0.55mg、クルミ1.92 mgでした。
- 食習慣がグローバル化する中で日本国内における食物アレルギーの原因食物も変化しています。今回の調査で、ナッツ類のED値は欧米で報告される値に近づきつつあり、食物アレルギーのリスク評価を定期的に見直す重要性が改めて認識されました。
研究概要
研究期間:2013年11月~2023年12月
研究対象:国立成育医療研究センターで研究期間中に食物負荷試験を受けた小児1,275例(ピーナッツ504例、カシューナッツ182例、クルミ589例)
調査項目:アレルギーのある人が、アレルゲンを摂取した際に症状を引き起こす最小の量であるED01値、ED05値、ED10値。また、特異的IgE値との関連も解析。
方法:ピーナッツ、カシューナッツ、クルミに対する食物経口負荷試験の結果を区間打ち切り生存時間分析を用いて複数分布モデルにより解析した。
発表論文情報
題名:Trends over a decade in the prevalence and eliciting dose of peanut and tree nut allergies in Japan
著者:久保田仁美、福家辰樹、濱口冴香、平井聖子、豊國賢治、山本貴和子、石黒精、大矢幸弘
所属:国立成育医療研究センター
掲載誌:The Journal of Allergy and Clinical Immunology: Global(JACI Global) 2025年11月掲載
DOI:10.1016/j.jacig.2025.100582
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