近年急増する「花粉食物アレルギー症候群」17歳で1割以上に発症~交差反応でりんご、キウイに特に注意~
この論文は、米国アレルギー学会公式雑誌「Journal of Allergy and Clinical Immunology: Global」に掲載されました。
[1]出生コホート研究とは、子どもが生まれる前から成長する期間を追跡して調査する疫学手法です。胎児期や小児期の環境因子を含め、さまざまなばく露因子が、子どもの成長と健康にどのように影響しているかを調査します。大人になるまで追跡する場合もあります。
[2]花粉食物アレルギー症候群(PFAS)とは、花粉症を持つ人が、花粉と似た構造を持つタンパク質を含む果物、野菜、豆類などを食べた際に、口の中やのどなどにアレルギー症状が現れたり、アナフィラキシーショックなどの重篤な症状に進行したりすることもある病気のこと。
[3]IgE感作とは、アレルギーの原因物質(アレルゲン)に反応する免疫グロブリン(IgE)抗体が作られる状態のこと。

プレスリリースのポイント
- 鼻炎症状:17歳青少年全体の63.8%が過去1年間に鼻炎症状を経験しました。
- アレルゲン感作: 78.8%が、樹木・草・雑草の花粉に対するIgE抗体陽性でした。
- 花粉関連疾患:54.4%が花粉アレルギーを有し、11.2%が花粉食物アレルギー症候群(PFAS)を発症していました。
- PFASの原因食品:最も多かったのはリンゴ(45.1%)、次いでキウイ(41.2%)、パイナップル(39.2%)でした。
- 合併症:PFASの43.1%にアトピー性皮膚炎の既往が認められました。
背景・目的
近年、花粉症(アレルギー性鼻炎)の有病率は世界的に増加傾向にあります。日本でも同様の傾向がみられ、これまでの研究では、5歳時点で約11%だった鼻炎の有病率が、9歳では約31%、13歳では68.8%に達するなど、年齢とともに上昇していることが示されています。
花粉に対するIgE感作が進むことで、果物や野菜などの植物性食品を摂取した際にアレルギー症状を呈する花粉-食物アレルギー症候群(PFAS) の発症も増加する可能性があります。PFASは、主に口腔や咽頭のかゆみ・腫れなどの症状を特徴とし、まれに全身性のアナフィラキシーを起こすこともあります。花粉と食物に含まれるアレルゲンが似ていることが原因で、花粉症の増加にともないPFASも増えると考えられています。
これまでに私たちは、一般集団を対象とした調査で、13歳の思春期におけるPFASの有病率が約10%であることを報告しました。しかし、日本の一般集団を対象として、時間の経過に伴うPFASの有病率の変化を検討した疫学研究はこれまで存在していません。特に、17歳といったより高年齢層における実態は明らかではありませんでした。
そこで本研究では、思春期集団を対象に、5年間の追跡期間を設けてPFASの有病率と感作状況の変化を明らかにすることを目的としました。
研究概要
同センターで行っている成育コホート(出生コホート)は、 2003年から2005年に妊娠した母親を登録し、現在も母親と誕生した子どもを妊娠中から継続的に追跡し、アンケート調査、診察、血液検査により、アレルギー性疾患や症状、IgE抗体価などを調査しています。疾患やケガなどで病院を受診した子どもを調査したのではなく、当センターで出産した一般集団の子どもを追跡し、過去・将来にわたって追跡調査した縦断的研究(前向きコホート研究)です。過去にさかのぼって情報を集めて比較する後ろ向きコホート研究や、現時点のみを調べる横断研究よりエビデンス・レベルの高い疫学調査です。
今回は、その中でも17歳の青少年458名分の血清および質問票調査により分析しました。
発表者のコメント
一般集団のコホートのデータに基づくと、PFASは17歳の青少年の約11.2%に認められました。PFASとアトピー性皮膚炎の既往歴との間には顕著な関連が認められ、アレルギーマーチ仮説4を裏付けていると考えられました。また、りんご、キウイ、パイナップルが最も頻繁に関連が示唆された食品でした。これらの結果は、近年急増しているPFASの実態を裏付けるものであり、青少年のアレルギー疾患管理においてPFASを認識することの重要性を改めて強調するものと考えられます。
[4]アレルギーマーチ仮説とは、乳幼児期のアトピー性皮膚炎を始まりとし、続いて食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎と次々と異なる時期にアレルギー症状が出現してくることが多く、これを音楽の「行進(マーチ)」に例えた仮説のこと。
発表論文情報
タイトル:Prevalence and Sensitization of Pollen-Food Allergy Syndrome Among Adolescents in Tokyo
執筆者:木口智之1、山本貴和子1、谷口智城1、福家辰樹1、大矢幸弘2,3
所属:
1) 国立成育医療研究センターアレルギーセンター
2) 名古屋市立大学大学院医学研究科環境労働衛生学
3) 藤田医科大学ばんたね病院総合アレルギー科
掲載誌:Journal of Allergy and Clinical Immunology: Global
DOI:10.1016/j.jacig.2025.100561
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