「乳児期」の体重増加は「成人期」の肥満に影響しない可能性 ~妊婦本人の母子健康手帳を用いた研究で解明~ 乳児期の体重増加に基づく授乳・栄養の制限は慎重に
国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)の周産期・母性診療センター産科の小川浩平診療部長らの研究グループは、母子健康手帳の情報を用いたコホート研究により、「乳児期の体重増加」が「成人期の肥満」の割合にどのような影響を与えるのかについて検討しました。
その結果、生後6カ月までに体重が多く増加していても、将来において「肥満(BMI≧25)」になる割合が増加しないことを明らかにしました。一方で、成人期における「やせ(BMI < 18.5)」の割合は低下していました。
母子健康手帳に掲載されている成長曲線よりも多く体重が増えていると、将来肥満になるかもしれないと不安に思う保護者は多いかもしれませんが、体重増加だけを理由に授乳量を制限しなくてもよい可能性が示唆されました。
本研究は、当センターに来院された1,441名の妊婦さんを対象としています。その妊婦さんが赤ちゃんだった頃(過去)の体重増加を当時の母子健康手帳に記録されたデータから調べ、出生から生後6カ月までの体重増加と、妊娠前(現在)のBMIを比較し、分析しました。本研究成果は、2025年9月2日、胎児・乳幼児期の栄養に関する権威である国際学術誌「Journal of Developmental Origins of Health and Disease」誌に掲載されました。
プレスリリースのポイント
- 乳児期に体重が多く増加しても、成人期に肥満になる割合は上昇しませんでした。生後6カ月時点で最も体重増加が大きかった群(5,230g~7,700g)でも、妊娠前の肥満(BMI>25)との関連はありませんでした。
- 一方で、乳児期に体重が多く増加すると、成人期のやせの割合は低下しました。生後6カ月の時点で最も体重増加が大きかった群(5,230g~7,700g)では、妊娠前にやせ(BMI<18.5)になる割合が低下しました。十分な体重増加が、将来のやせを予防する可能性が示唆されました。
- ただし、生後1カ月・3カ月時点での体重増加量は、妊娠前の肥満・やせの割合に関連はありませんでした。
- 授乳や栄養摂取が適正かどうかを判断する際、乳児期の体重増加量だけを根拠に安易に授乳量の制限をすべきではない可能性が示唆されました。
- 母子健康手帳に記載されている成長曲線は、赤ちゃんの発育を評価するための目安です。必ずその通りに発育していないといけないわけではありませんので、乳幼児健診で医師や保健師などに見てもらいましょう。
研究概要
2017年4月~2021年12月の期間に当センターへ通院し、研究参加と母子健康手帳のデータ提供に同意した1,501名のうち、妊娠前体重データがそろっていた1,441名を対象としました。対象者には、出生体重、生後1・3・6カ月の体重、授乳方法などの情報が記載された自身の母子健康手帳を持参してもらい、データを収集しました。
生後1・3・6カ月時の体重増加量を5カテゴリーに分類(人数で均等割)し、妊娠前の体重から、それぞれのカテゴリーの中で「やせ(BMI<18.5)」と「肥満(BMI≧25)」になった人の割合算出。乳児期の体重増加量と「やせ」「肥満」との関連を解析しました。
発表論文情報
タイトル:Association between women's weight gain during their infancy and being overweight or underweight in adulthood: a retrospective cohort study
執筆者:工藤優香梨1、小川浩平1,2*、東裕福1、和田友香3、和田誠司1
所属:
1)国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 産科
2)国立成育医療研究センター 社会医学研究部
3) 国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 新生児科
掲載誌:Journal of Developmental Origins of Health and Disease
DOI:https://doi.org/10.1017/S2040174425100202
*責任著者
- 本件に関する取材連絡先
-
国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
03-3416-0181(代表)
koho@ncchd.go.jp
月~金曜日(祝祭日を除く)9時〜17時
※医療関係者・報道関係者以外のお問い合わせは、受け付けておりません。