思春期・若年成人(AYA世代)における食物経口負荷試験の実施が増加~食生活やQOL向上のため16歳以上にも保険適用拡大を~
プレスリリースのポイント
- 国立成育医療研究センターは、約10年間の食物経口負荷試験データを解析し、16歳以上の思春期・若年成人(AYA世代)における試験件数が5倍以上に増加している実態を明らかにしました。
- AYA世代では、複数アレルゲンへの感作やアナフィラキシーの既往が多く、正確なアレルギー評価のためにOFC実施の必要性が高まっています。
- 現在、日本ではOFCは16歳未満のみ保険適用であり、本研究結果は16歳以上への保険適用拡大の必要性を示唆しており、今後の政策的議論への貢献が期待されます。
背景・目的
食物アレルギーは乳児期や幼少期に発症し、多くは成長とともに自然に治癒しますが、ピーナッツや木の実、魚介類など一部のアレルゲンでは、思春期や若年成人になっても症状が続くことがあります。また、この年代は進学や就職、親元からの独立といったライフステージの変化と重なることから、アレルギー管理において重要な時期とされています。
OFCは、患者さん本人が医療機関でアレルギーがあるとされる食品を実際に少量ずつ摂取し、安全に食べられるかを評価する検査で、診断や食物摂取可能量の判断、リスク評価において極めて重要な役割を果たします。しかしながら日本では、16歳未満の患者さんを対象とした小児食物アレルギー負荷検査は保険適用となっていますが、16歳以上のAYA世代の患者さんに対しては保険適用がありません。そこで、AYA世代でのOFCのニーズや実態を明らかにすることを目的に解析をしました。
研究の内容と結果
本研究では、当センターで2013年から2023年にかけて実施された13,479件のOFCデータを解析しました。そのうち思春期・若年成人(16歳以上)に対して行われたOFCは349件(2.6%)であり、2023年には、OFCを実施した全体のうち4.2%が16歳以上のAYA世代であり、2014年の0.8%から5倍以上に増加しています。
また、思春期・若年成人の患者さんでは、小児患者さんと比較して以下の傾向が見られました。
- 複数の食物アレルギーを有する割合が高い(75.1% vs. 62.3%)
- 経口免疫療法(OIT)の受療歴が多い(58.5% vs. 50.9%)
- アナフィラキシーの既往が多い(27.8% vs. 10.9%)
発表者のコメント
AYA世代では、複数の食物アレルギーやアナフィラキシーの既往を持つ患者さんが多く、経口免疫療法後の耐性獲得の確認など、正確なアレルギー評価が求められます。OFCはその診断と管理に不可欠な検査であり、成長し、ライフステージが変化した患者さん自身の食生活の自由や生活の質(QOL)の向上にも大きく寄与するものです。
しかしながら、現在の診療報酬制度では、OFCは16歳未満の小児にのみ保険適用とされており、AYA世代への実施は医療機関側の自主的な対応に委ねられています。この制度上の制約が、AYA世代に必要な医療を適切に提供する上で大きな障壁となっている可能性が示唆されました。
本研究成果は、AYA世代におけるOFCの実施ニーズが明らかに高まっていることを示しており、今後の食物アレルギー医療の充実に向けて、OFCの保険適用範囲を16歳以上にも拡大することが強く求められます。
当センターでは、科学的根拠に基づく診療体制の整備を進めるとともに、今後も政策提言を通じて、思春期・若年成人へのアレルギー診療の質の向上に貢献してまいります。
発表論文情報
題名:Rising Use and Need for Oral Food Challenges in Adolescent and Young Adults: Implications for Allergy Management
著者:大森茉令(筆頭著者)、山本貴和子(責任著者)、原間大輔、濱口冴香、萩野紘平、鈴木大地、梅沢洸太郎、石川史、
平井聖子、豊國賢治、福家辰樹、大矢幸弘
所属名:国立成育医療研究センター アレルギーセンター
掲載誌:The Clinical Experimental and allergy 2025
DOI: 10.1111/cea.70073
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