ダニ舌下免疫療法が小児の入院と抗菌薬使用を大幅に抑制 ~全国規模リアルワールドデータで有効性を確認~
国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)の社会医学研究部 臨床疫学・ヘルスサービス研究室の大久保祐輔室長と免疫アレルギー・感染研究部の森田英明部長の研究チームは、アレルギー性鼻炎の治療法であるダニ舌下免疫療法(SLIT)について、小児を対象とした全国規模のリアルワールドデータを解析し、その実臨床効果を明らかにしました。
従来、ダニ舌下免疫療法がアレルギー性鼻炎の症状改善に有効であることは広く知られていましたが、5〜12歳の小児に対する有効性や、喘息発作などによる入院の予防効果、抗菌薬処方の抑制効果は分かっていませんでした。
本研究では、医療保険レセプトデータを用いて、2015~2021年度にダニ舌下免疫療法を開始したグループと、この治療を受けなかったグループを比較しました(各群10,985名)。3年間追跡した結果、舌下免疫療法導入後には、累積抗菌薬使用は13.7%減少(95%信頼区間[CI]:7.7%減~20.2%減)、入院は65.2%減少(95%CI:52.8%減~74.4%減)し、総医療費の変化はわずか(8.9%の増加[95%CI:12.0%減~34.7%増])にとどまりました。
本研究結果から、舌下免疫療法は小児の入院を大きく減少させ、抗菌薬使用の減少効果もあり、また医療費への影響は少ないため、小児の通年性アレルギー性鼻炎の実臨床においても有効な治療法と考えられます。
本研究の成果は、アレルギー分野の学術誌「Allergy」に2025年7月付に論文として掲載されました。
※本研究の内容はすべて著者らの意見であり、厚生労働省の見解ではありません。
【図1:ダニ舌下免疫療法が全抗菌薬処方に与えた影響】
【図2:ダニ舌下免疫療法が入院率に与えた影響】
【図3:ダニ舌下免疫療法が総医療コストに与えた影響】
プレスリリースのポイント
- 株式会社JMDCが提供するレセプトデータベースを用いて、2015~2021年度にダニ舌下免疫療法を開始した1万3449人と、同時期にこの治療を受けなかったアレルギー性鼻炎の173万2961人を特定しました。
- 傾向スコアマッチングで患者背景が類似した各群の1万985名を3年間追跡し、抗菌薬の使用、入院率(入院日数/1000人)、医療コストを解析しました。
- 本研究では、さまざまな疾患に対する効果を見逃さないために対象疾患を絞っていないこと、またレセプトデータの性質上、診断名の精度や一貫性には限界があるため、理由を特定する解析には一定の不確実性が伴うことから、包括的な評価を採用したことを理由として、主要アウトカムを「全抗菌薬使用」「全入院」「全医療費」としています。
- 36か月後には、全抗菌薬処方が13.7%減少(95%信頼区間[CI]:7.7%減~20.2%減)し(図1)、入院率が65.2%減少(95%CI:52.8%減~74.4%減)(図2)しました。一方、総医療費は8.9%の増加[95%CI:-12.0%~+34.7%])にとどまり、影響は少ないと言えます(図3)。
- ダニ舌下免疫療法の持続的な有効性を、5〜19歳の小児で認めました。
研究の考察
アレルギー性鼻炎を対象とした治療であるダニ舌下免疫療法が、抗菌薬の使用を大幅に抑制した明確な理由は明らかになっていませんが、下記のような可能性が考えられます。
- ハウスダストなどに対するアレルゲン特異的IgE抗体は、免疫細胞に作用し抗ウイルス免疫応答を抑制させることが知られています。ダニ舌下免疫療法により、抗ウイルス免疫応答を抑制させる力が弱まることで、結果的に抗ウイルス免疫応答が強化され、感染症のリスクが低下した可能性があります。
- ダニ舌下免疫療法によりアレルギー性鼻炎の症状が改善し、抗菌薬を必要とするような持続性の咳や副鼻腔炎などの疾患の発症リスクを低下させた可能性があります。
- ダニ舌下免疫療法を開始することにより、継続的な診療がなされ、喘息の薬物療法の強化とともに、喘息の症状コントロールが改善した結果、感染症のリスクが低下した可能性があります。
発表論文情報
題名(英語):Real-World Effectiveness for Sublingual Allergen Immunotherapy Among School-Aged Children and Adolescents
著者名:大久保祐輔¹、桑原優²、佐藤さくら³、坂下雅文⁴、森田英明⁵.⁶
所属
(1)国立成育医療研究センター 社会医学研究部 臨床疫学・ヘルスサービス研究室(責任著者)
(2)独立行政法人国立病院機構三重病院 アレルギーセンター
(3)国立病院機構相模原病院 臨床研究センター アレルギー疾患研究部
(4)福井大学医学部 感覚・運動医学講座 耳鼻咽喉科学領域
(5)国立成育医療研究センター 免疫アレルギー・感染研究部
(6)同センター アレルギーセンター
掲載誌:Allergy
DOI:10.1111/all.16646
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