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離乳期早期の鶏卵摂取は鶏卵アレルギー発症を予防することを発見

※実際の鶏卵摂取については専門医の指導を仰いでください

離乳期早期の鶏卵摂取により鶏卵アレルギーの発症が予防できることをランダム化比較試験で実証

国立成育医療研究センターアレルギー科の大矢幸弘医長、夏目統(おさむ)医員(現・浜松医科大学小児科)、同研究所、徳島大学らのグループは、生後6ヶ月より固ゆで卵を少量ずつ摂取させることにより、子どもの食物アレルギーの中で最も頻度の高い鶏卵アレルギー(わが国では医師の指示で3歳児の5.8%が鶏卵摂取を制限)を8割予防できることをランダム化比較試験(補足説明1)で実証しました。この研究成果は英国時間2016年12月8日【報道解禁時間は23時30分(日本時間12月9日8時30分)】世界最高峰の臨床医学雑誌の一つであるランセット(The Lancet)より発表されます。

原論文情報

プレスリリースのポイント

  • 生後6ヶ月より固ゆで卵を与えたグループは、与えなかったグループに比べ、1歳時の鶏卵アレルギーの発症率(%)が約8割減少しました。
  • 生卵乾燥粉末を使用しアナフィラキシーなどの症状がみられた先行研究と比較して、今回の研究では少量(50mg)の固ゆで卵粉末+かぼちゃ粉末より開始したため、安全に実施することができました。
  • なお、この研究は発症予防効果を検討したものです。*すでに鶏卵アレルギーと診断されている乳児の鶏卵摂取の可否、及び予防を目的とした実際の鶏卵摂取については、専門医の指導を仰いでください。また、卵の加熱が不十分だと抗原性が高くなり危険です。自分で調整することは危険なので、必ずアレルギー専門医に相談してください。

背景

これまで、あまり科学的とはいえない方法により実施された臨床研究の報告をもとに、鶏卵やピーナッツなど食物アレルギーの原因となりやすい食品は離乳期早期からの摂取を避けることが望ましいと考えられていました。
ピーナッツ・バターを大量に消費する米国、英国の家庭では子どものピーナッツ・アレルギーの発症が多いのですが、そのような家庭では寝室中のピーナッツ抗原濃度はダニ抗原濃度を遙かに上回ることがわかりました(文献1)。このことは家庭でよく消費する食物抗原は環境中にアレルギー反応をおこすほどの濃度で存在しているということを意味しています。
私たちは成育コホート研究事業において、乳児期の湿疹発症は、その後の食物アレルギー発症と強く相関することを見いだしました(文献2)。乳児期の湿疹は鶏卵蛋白質の感作と相関することも報告しています(文献3)。そのほか、湿疹やアトピー性皮膚炎がその後の食物アレルギーの発症と相関するという複数の疫学調査結果で出ています。
乳児期からピーナッツを食べさせる習慣のある地域(イスラエル)の方が、離乳期にピーナッツを食べさせない地域(英米)に比べピーナッツ・アレルギーが少ないこともわかりました。このような疫学調査により、「離乳早期にアレルギーをおこしやすい食品を食べさせると食物アレルギーを予防できるかもしれない」という仮説が提示されたので、この仮説を証明するためにピーナッツや鶏卵などの食物を離乳早期に与える介入を行うランダム化比較試験が成育センターを始めとした幾つかの施設で開始されました。そして、ピーナッツ製品を乳児期から食べさせる介入を行ったランダム化比較試験の結果は昨年、New England Journal of Medicineに発表(文献1)され、最近報告されたメタ解析(文献4、補足説明1)においても、ピーナッツの離乳期早期摂取の有効性が確認されました。

研究手法と成果

研究手法の画像

私たちの研究は厳密にコントロールされたランダム化比較試験により行われました。つまり、研究者(私たち)の主観やバイアスを避ける目的で、予め「離乳早期から卵を摂取すると卵アレルギーが予防できるかもしれない」という仮説や研究方法、評価項目をインターネット上で公開して実施されました。
より少ない人数で介入効果を調べるために、食物アレルギーを高頻度に発症することの知られている生後4ヶ月までにアトピー性皮膚炎を発症した乳児を研究対象として卵群とプラセボ群にランダムな割り付けが行われ、生後6ヶ月から介入が実施されました。
そして、私たちの予想を超える大差で、早期摂取した方が発症を予防できるという仮説が実証されました。なお、私たちは、両群ともアトピー性皮膚炎の治療を徹底して行いました。健康な腸管では免疫寛容を誘導する働きが強いのに対し、湿疹のある皮膚から抗原が入るとアレルギー疾患の発症・増悪をおこす(補足説明2)ことが知られており、皮膚炎を放置すると、経口摂取の効果に干渉すると判断したためです。

離乳期早期の鶏卵摂取は鶏卵アレルギー発症を予防することを発見の画像

図の通り、加熱全卵粉末 を少量摂取した群の卵アレルギーの発症率(%) は、プラセボ群(カボチャ粉末)と比べて8割減という研究結果が得られました。

今後の展望・コメント

補足説明1に記載したように複数のランダム化比較試験を総合的に分析したメタ解析の結果は、診療ガイドラインや生活指導に即応用可能です。私たちは2016年3月の米国アレルギー学会にて本研究成果の一部を発表しているので、他研究者の研究成果と併せてメタ解析結果として発表され (文献4)、「鶏卵の離乳期の早期摂取は鶏卵アレルギーの発症を予防する」という結論*になりました。しかし、固ゆで卵少量から開始し、アトピー性皮膚炎を徹底して治療した私たちの方法と異なり、生卵乾燥粉末をもちいた他の研究では効果も低く、安全性に問題が残るものもあることから、それぞれの文脈(研究方法の詳細)を理解し判断すべきであるというコメントも付けられています。
*このプレスリリースは、発症予防効果に関する研究成果です。すでに鶏卵アレルギーと診断されている乳児の鶏卵摂取の可否、及び予防を目的とした実際の鶏卵摂取については、専門医の指導を仰いでください。また、卵の加熱が不十分だと抗原性が高くなり危険です。自分で調整することは危険なので、必ずアレルギー専門医に相談してください。

参考文献

1) Du Toit G, Roberts G, Sayre PH, Bahnson HT, Radulovic S, Santos AF, Brough HA, Phippard D, Basting M, Feeney M, Turcanu V, Sever ML, Gomez Lorenzo M, Plaut M, Lack G; LEAP Study Team. Randomized trial of peanut consumption in infants at risk for peanut allergy. N Engl J Med. 2015 Feb 26;372(9):803-13.
2) Shoda T, Futamura M, Yang L, Yamamoto-Hanada K, Narita M, Saito H, Ohya Y. Timing of eczema onset and risk of food allergy at 3 years of age: A hospital-based prospective birth cohort study. J Dermatol Sci. 2016 Nov;84(2):144-148.
3) Horimukai K, Morita K, Narita M, Kondo M, Kitazawa H, Nozaki M, Shigematsu Y, Yoshida K, Niizeki H, Motomura K, Sago H, Takimoto T, Inoue E, Kamemura N, Kido H, Hisatsune J, Sugai M, Murota H, Katayama I, Sasaki T, Amagai M, Morita H, Matsuda A, Matsumoto K, Saito H, Ohya Y. Application of moisturizer to neonates prevents development of atopic dermatitis. J Allergy Clin Immunol. 2014 Oct;134(4):824-830.
4) Ierodiakonou D, Garcia-Larsen V, Logan A, Groome A, Cunha S, Chivinge J, Robinson Z, Geoghegan N, Jarrold K, Reeves T, Tagiyeva-Milne N, Nurmatov U, Trivella M, Leonardi-Bee J, Boyle RJ. Timing of Allergenic Food Introduction to the Infant Diet and Risk of Allergic or Autoimmune Disease: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA. 2016 Sep 20;316(11):1181-1192.

補足説明1.ランダム化比較試験とは?、メタ解析とは?

図はエビデンスのレベルをピラミッド状に示したものです。我々の研究手法のランダム化比較試験は上から2番目に高いレベルのエビデンスを提供します。我々の結果などを総合的に解析した文献4などのメタ解析結果が一番高いレベルのエビデンスになります。
Natureなどの雑誌に動物実験結果が掲載されると、翌日、「○○疾患の新規治療方法を発見。」などと報道されることがあります。しかし科学的に正しくとも、多くの場合、多様性のある人の疾患に外挿することは無理があります。
また、人を対象とした研究であっても、後方視的研究の場合、多数の症状や検査結果から研究者にとって都合のよいものだけを抜き出して論文にすることもできるので、「食物アレルギーの発症を予防するためには妊娠中から卵を食べない方がよい」などと間違った結論が導き出されることもあります。後方視的な研究の成果は仮説として考えるべきです。
RCTの画像

補足説明2.二重暴露仮説

同じアレルゲンであっても、健康な舌下や腸管などの組織から侵入すると耐性を誘導し、アトピー性皮膚炎など傷ついた組織から侵入すると炎症を促進します。
健康な腸管ではアレルギー反応を抑制する制御性T(TREG)細胞などの細胞が増殖しやすいのに対し、アトピー性皮膚炎の患部組織では、アレルゲンを取り込み、その情報を伝達する役割をもつ樹状細胞が突起を伸ばしていたり、アレルギー反応を増強する2型ヘルパーT(TH2)細胞などの細胞が増加したりしているためです。
二重暴露仮説の画像

本件に関する取材連絡先

国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室

03-3416-0181(代表)

koho@ncchd.go.jp

月~金曜日(祝祭日を除く)9時〜17時


※医療関係者・報道関係者以外のお問い合わせは、受け付けておりません。

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