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米国のガイドライン

小児画像診断の正当化 ― 欧米のガイドラインに関連して 米国編

米国放射線医学会(American College of Radiology)の 「ACR Appropriateness Criteria」は、ACRが主治医あるいはその他の医療従事者に対してどのように画像診断を進めるべきかを具体的に提示しているガイドライン集です。これらのガイドラインは主治医にとって実際の臨床の現場において助けになると考えられています。

2020年現在、ホームページ上(https://acsearch.acr.org/list)で誰でも自由に閲覧をすることが可能な状況になっています。

トピックは乳腺や心臓、消化器、腎・泌尿器、外傷、骨軟部、神経、小児、胸郭、泌尿器科、血管系など複数の項目に分かれています。

小児疾患では17項目についてガイドラインが作成されており、タイトルとしては5歳以下の急性跛行、背部痛、脳血管障害、急性臼蓋形成不全、熱源不明の発熱、頭部外傷、頭痛、血尿、免疫不全の肺炎、側弯、痙攣、副鼻腔炎、急性虫垂炎、虐待疑い、脊椎外傷、尿路感染症、3ヶ月以内の乳児の嘔吐です。

"Usually appropriate" の場合には臨床的な状況において大部分適切な検査法であること、 "may be appropriate" の場合には臨床的な状況によっては適切にも不適切にもなり得ること、"usually not appropriate" の場合には臨床的に不適切な場合が多いことと明示されています。また被ばくの程度に関してはそのマークが一つの場合には小児の場合 0.03mSv未満、マークが2つの場合には 0.03 ~ 0.3mSv 程度、マークが3つの場合には 0.3 ~ 3mSv程度と記載がされています。

guidelines01の画像
https://acsearch.acr.org/docs/3083021/Narrative/ 最終アクセス2020年3月7日)

今回このPIJONのサイトでは、その中から比較的頻度の高い頭部外傷および急性虫垂炎の場合についてのガイドラインを一部紹介します。

ACR のガイドラインでは、臨床の一定の状況においてどのような手技がどの程度適切であるか、およびその被ばくの程度を☢マークの個数により表示し、視覚的に捉えやすくなるように試みがなされています。また臨床で頭部外傷といっても幅広い状況があり得るために、いくつかの variation において検査の手段の評価が行われています。

例えば頭部外傷においては、脳実質への臨床的に重大な損傷がさほど強く疑われない状況であり、かつ虐待が疑われない初回の検査においては、脳血管造影や CT、MRI 、頭部単純X線撮影のいずれもが usually not appropriate と評価されています。その一方でグラスゴーコーマスケールが 13点以下の場合で中等度から重度の急性の頭部外傷が疑われ虐待が除外された初回の検査では、非造影CT が usually appropriate と評価されています。さらに放射線被ばくのマークが3つ付いており、被ばくが少なくないことも同時に分かるようになっています。

guidelines02の画像
https://acsearch.acr.org/docs/3083021/Narrative/ 最終アクセス2020年3月7日)

添付した図は小児の急性の頭部外傷で、PECARN基準に照らして臨床的に重要な頭部損傷の危険性が高いと判断された場合の基準です。

一方で慢性の頭部外傷で新たに神経学的な症状が認められた場合や、虐待が除外された場合には非造影 MRI が usually appropriate となり、非造影CTは may be appropriate (disagreement) と表示されています。すなわち急性か慢性か、そして急性の頭部外傷の場合には臨床的な重症度の判断を行った後に被ばくのあるCTを行うかどうかを決める必要があるということが明確に分かるようになっています。さらにこの臨床的な推奨度の脇には一つの勧告に対して豊富な参考文献が記されており、検査を行う際における根拠を知ることも可能となっています。

次に虫垂炎の場合について同様に表を見てみると、虫垂炎の場合には臨床的に急性虫垂炎の可能性が低い初回の検査としては画像診断を行わないことが推奨されています(https://acsearch.acr.org/docs/3105874/Narrative/ 最終アクセス日時2020年3月7日)。

一方で急性虫垂炎を強く臨床的に疑う場合には、造影CT、非造影MRIおよび超音波検査が may be appropriate との記載になっています。しかしここで注意が必要なのは、臨床的に虫垂炎が強く疑われる場合よりもむしろ虫垂炎かどうか臨床的に分からない場合に、同じく造影CTおよび非造影MRIの2つが usually appropriate との記載になり、腹部超音波は may be appropriate (disagreement)となる点です。

このように臨床的な状況において、虫垂炎のように画像診断以外の診察でも時に診断が可能と考えられるものに関しては、それぞれ異なったシナリオとして記載が行われています。

一方で、興味深いのは急性虫垂炎であり膿瘍形成や消化管閉塞などのその他の合併症が示唆された場合には、次に何の検査を行うべきかの推奨がある点です。MRI は may be appropriate(disagreement) となり、造影CTのみが usually appropriate となっています。ご承知のように、 MRI はこどもの状態が良い時には有力なツールですが、こどもの状態が悪い時には造影CTを優先するという考え方は実際の現場に即しており、使い勝手の良いものとなっています。また腹部超音波が may be appropriate となっている点に関しては、24時間腹部超音波検査を行える施設がアメリカでも数少ないという点が考慮されていると思われます。

ガイドラインはダイナミックに変化し続けているものであり、今後も修正が加えられていくと予想されます。医療被ばくは小児においてガイドラインの中で重要な項目の一つであり、検査の正当化のプロセスにおいてガイドラインを参照しながら日常診療を行っていくことが今後ますます重要になってくると考えられます。

田波 穣(埼玉県立小児医療センター放射線科 放射線科科長兼副部長)

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