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英国のガイドライン

小児画像診断の正当化 ―欧米のガイドラインに関連して 英国編  ―

米国にAmerican College of Radiology(ACR 米国放射線医学会)が定めているガイドラインがあるように、英国には臨床放射線の最適利用のためのガイドラインiReferがあります(図1)。iReferは英国王立放射線科専門医会(The Royal College of Radiologists)が提供する重要な放射線検査のガイドラインツールで、1989年発刊以来、現在最新版(2017年発刊)まで8版を重ねており、発刊以来30年の長い歴史があります。

iRefer第7版は独立行政法人 放射線医学研究所(現量子科学技術研究開発機構(QST))医療被ばく研究情報ネットワーク(J-RIME)より日本語翻訳版『臨床放射線の最適利用のために』として2014年インナービジョン社より出版されており入手が可能です(図2)。

またiReferのオリジナル最新英語版はインターネットで購入が可能です。米国のACRガイドラインは無料であるのに対し、英国のiReferは有料(90£)で、購入後websiteからダウンロードできます。

iRefer第7版の表紙

図1:iRefer第7版の表紙

英国王立放射線科専門医会(RCR)が策定した放射線検査のガイドライン 表紙と内部のサンプルイメージ

図2:英国王立放射線科専門医会(RCR)が策定した放射線検査のガイドライン(iRefer 第7版2012)
インナービジョン社2014年3月31日発行:表紙と内部のサンプルイメージ


英国iReferが唱える『なぜガイドラインが必要なのか?』

有用な検査法とは、陽性であれ、陰性であれ、その結果によって診療に有用な情報が得られ、さらに医師の診断の確かさが高められるものです。現代の医療現場では相当数の放射線検査がこの目的を満たしておらず、患者への不必要な被ばくを与えている可能性があります。放射線診断の無駄な利用を避けるために問われるべき重要な問題点が列挙されています。
  1. その検査はすでに実施されていないか?すでに行われた検査の繰り返し:

    別の病院、救急や外来などで行われている場合はその画像やレポートを入手するために最大限の努力をすべきである。

  2. その検査は必要か?検査結果が診療に影響する可能性が低い、または過剰な検査の実施:

    一般の臨床医や患者には安心のために検査に頼る傾向がみられる。

  3. その検査は今、必要か?時期尚早な検査:

    例えば疾患が進行も寛解もしていない場合など検査や治療の必要性をもっと適切な時期に再検討すべきである。

  4. その検査は最適であるか?不適切な検査の実施:

    画像診断技術は常に進化しており、画像診断専門家とその検査につき協議すべきである。

  5. 問題について説明しているか?適切な臨床情報や画像検査によって解消すべき疑問についての情報の伝達が不足している:

    臨床上の問題に十分焦点を当てていない報告につながる。


『誰のためのガイドラインか?』

iReferは特に一般開業医および専門を持たない臨床医、コメディカルの利用を意図したものです。その他保健機関が企画立案の参考にしたり、一部の患者が医師の要求する検査が適切かどうかを再確認したりするためにも利用できます。画像検査の方針を国内で広く同等なものとするうえでも助けになります。

放射線量を最小限にとどめ、高価な診断装置、人材およびその他の資源の公正な利用を助けることを目指しています。


各論:

1) iReferにおける小児画像診断ガイドライン

前述の米国ACRガイドラインと同様に、iReferは乳房、がん、胸部および心血管系、耳鼻咽喉・頭頚部、消化器系、インターベンショナルラジオロジー(IVR)、筋骨格系、神経系、産婦人科 小児、外傷、泌尿生殖器および副腎の12のセクションに分かれてガイドラインが記載されています。全174ページの各論部分のうち小児の領域は19ページ、全体の1割のボリュームを占め充実している印象を持ちます。

さらに小児セクションの内部でも、解剖学的な観点から心胸郭、耳鼻咽喉・頭頚部、消化器系、筋骨格系、泌尿生殖器および副腎の5項目に亜分類されており参照しやすい作りになっています。

2) iReferを実際に使用してみよう

guidelines-uk03の画像

臨床診断上の問題点:

上の表は小児の急性腹痛の例を示していますが、この項目には"反復性の咳"や"跛行"といった現実的な主訴が多く記載されており使いやすい印象です。それぞれの主訴には番号が与えられており、小児の急性腹痛はP28とナンバーが記されています。上の表の(G12, G13、G14, G20も参照)はほかのセクションで同様の主訴が関連付けられており、その項目に似通った、他の疾患の要チェック項目が示されており便利です。ちなみにG12は成人領域の急性腹痛、G13は成人のイレウスです。

小児を表すPの頭文字の臨床上の問題点はなんとP1からP42まで42項目もあります。

線量:

☢☢ ☢☢☢ ☢☢☢☢
1ミリシーベルト以下 1~5ミリシーベルト 5.1~10ミリシーベルト 10ミリシーベルト以上

勧告:

以下の4つのランキングがあります。

①適応 臨床的診断および治療等に最も役立つ可能性が高い検査
②特殊検査 特殊な検査は複雑で時間がかかり、さらに資源を消費するものが多いため、通常は放射線科との協議のうえで実施するが、それぞれの場で合意済みのプロトコルに従って実施する。
③特定の状況下に限り適応 例外的な検査で通常、臨床医が説得力のある理由を示せる場合か、放射線科医が患者の診断および治療を進めるためにその検査が適切であると判断した場合に限り実施する。時間の経過により解消する可能性のある特定の臨床上の問題では、検査の延期も妥当な場合もある。
④適応外 提示される根拠が適切でない検査

エビデンスグレード:

オックスフォード大学のEBM評価を引用しています。

【A】 新しい検査法についてしかるべき範囲の患者を対象に、独立的、盲検的に標準的検査と比較している質の高い診断研究など
【B】 新しい研究法について、一連の非連結登録症例または狭い範囲に限定される患者の集団を対象に、盲検的かつ独立的に標準的検査と比較した研究など
【C】 標準的検査が対象でない研究、専門家の見解など

おわりに

英国王立放射線科専門医会(The Royal College of Radiologists)が提供するiReferの内部を詳細に紹介しました。iReferガイドラインは急に作成したものではなく、30年という月日が培ってきた歴史と完成度の高さを実感します。今後、日本の画像診断ガイドラインもこのように充実していくことが望まれます。

宮嵜 治(国立成育医療研究センター 放射線診療部 診療部長)

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