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免疫抑制薬内服中患者への弱毒生ワクチン接種、全国実態調査を開始

感染症から免疫抑制薬内服患者を守るために、弱毒生ワクチン接種が行える社会的システム構築に向けて実態調査で必要性や安全性を評価

国立成育医療研究センター 腎臓・リウマチ膠原病科 亀井宏一らのグループは、一定の免疫学的基準を満たした免疫抑制薬内服中の患者に弱毒生ワクチンを接種する臨床研究を実施して、免疫抑制薬内服中の患者でも免疫学的基準を満たした上での弱毒生ワクチン接種は有効かつ安全性も高いことが明らかになりました。
より多数の情報を収集するため、免疫抑制薬または生物学的製剤を使用している患者への弱毒生ワクチン接種についての方針や、実際に接種した患者の数や重篤な副作用の有無などについての実態調査を開始します。

プレスリリースのポイント

  • 現在、ステロイドや免疫抑制薬内服中の患者は、感染症が重症化するリスクが高いため、弱毒生ワクチン*の接種は禁忌となっています。
  • この免疫抑制薬は疾患の活動性を抑える、あるいは臓器移植後の拒絶を抑える目的で、主にネフローゼなどの腎疾患、消化器疾患、リウマチ疾患、臓器移植後の患者が内服しています。当センターで一定の免疫学的基準を満たした免疫抑制薬内服中の患者88名に弱毒生ワクチン接種を行った結果、1名はワクチン株由来の水痘を発症し、2名は原疾患の再燃(ネフローゼ症候群再発)が認められましたが、致命的な副作用はみられませんでした。
  • 免疫抑制薬を内服している患者が弱毒生ワクチン接種できると、ウイルスによる重症感染を予防することが可能となります。免疫抑制薬内服中の患者でも一定の免疫学的基準を満たしていれば弱毒生ワクチンの接種ができる社会的システム構築に向けて、国内の小児の腎疾患、リウマチ疾患、肝・消化器疾患、固形臓器移植患者(腎臓、肝臓)を専門的に診療している480施設を対象に実態調査を開始します。
*弱毒生ワクチン: 生きた細菌やウイルスの毒性を弱めたワクチン。接種することによって、その病気にかかった場合と同じように抵抗力(免疫)をつけようとするもの。結核、痘瘡、黄熱、ポリオ、麻疹、おたふくかぜ、風疹などで使用される。

背景・目的

免疫抑制療法中の患者は感染症が重症化するリスクが高く、添付文書や各種ガイドラインではステロイドや免疫抑制薬内服中は弱毒生ワクチンの接種は禁忌となっています。また、弱毒生ワクチンは、我が国の免疫抑制薬(タクロリムス、シクロスポリン、ミゾリビン、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチルなど)の添付文書に併用禁忌薬として記載されています。
米国小児学会(American Academy of Pediatrics)の最新感染症ガイド(Red Book)でも「弱毒生ワクチン接種は免疫抑制薬中止後3ヶ月までは避けるべき」と書かれています。その理由は、細胞性免疫不全患者は弱毒生ワクチンを接種することでワクチン株のウイルス感染症を発症するリスクがあり、全ての免疫抑制薬は発売時点で一律弱毒生ワクチンは禁忌と書かれてしまうためです。
一方、免疫抑制療法中あるいは免疫不全患者は、ウイルス感染症のリスクが高く、しばしば致命的となります。特に水痘は、免疫抑制状態だと内臓臓器障害を起こすことが知られており、多臓器不全を合併することがあり、当センターでも院内感染の水痘による多臓器不全で救命できなかった症例を経験しています。
米国と異なり麻疹や水痘が社会的に流行することが少なくない我が国では、これらのウイルス感染のリスクに常にさらされています。長期に免疫抑制薬の内服をせざるを得ない子どもたちを、こうしたウイルス感染症から守るのは我々の責務であります。
免疫抑制薬内服中の弱毒生ワクチン接種は固形臓器移植後の患者が多く、これまで臨床研究、ケースシリーズ、症例報告など14報告およびこれらをまとめた4本のレビュー論文があり、小児の報告が多くみられます。
計257名に559接種(麻疹 107、風疹 68、水痘 230、ムンプス 97、黄熱 20、MMR 37)が行われ、抗体獲得率は麻疹41~100%、風疹70~100%、水痘32~100%、ムンプス48~100%と報告されています。
有害事象については、ワクチン株によるウイルス感染発症が20名(3.7%)で、内訳は水痘ワクチン接種後の水痘発疹は230名中18名(7.8%)、MMRまたはムンプスワクチン接種後の耳下腺腫脹は134名中2名(1.5%)でした。ワクチン株によるウイルス感染症リスクは健常人よりも高い可能性はありますが、弱毒化されているため野生株の感染症に比べて軽症であり、これまで致命的な合併症は認められていません。

研究手法と成果

研究方法
麻疹・風疹・水痘・ムンプスのいずれかの抗体がEIA法のIgGで(±,2.0-3.9)か(-,<2.0)を示し、細胞性および液性免疫能(CD4≧500/mm3、PHAリンパ球幼弱化反応正常:SI≧101.6、血清IgG≧300mg/dl)など事前検査で一定の基準を満たした免疫抑制薬(タクロリムス、シクロスポリン、ミゾリビン、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、メトトレキサート、エベロリムスのいずれかまたは複数)内服中の患者について、月1回開催されている「免疫抑制薬内服中の患者への生ワクチン接種適応評価委員会」で接種の承認を受けた上で、MR(麻疹風疹混合)ワクチン、麻疹ワクチン、水痘ワクチン、おたふくかぜワクチンのいずれかを接種しました。
抗体獲得(seroconversion)の定義はEIA法のIgGで(+,≧4.0)とし、接種後その基準に到達しなかったものをvaccine failureとしました。主要評価項目は、接種2ヶ月後の抗体価と1年後の抗体維持率、vaccine failure例の再接種、breakthrough infection、有害事象などの評価も行いました。

結果
2011年5月から2017年1月までに、当センターの患者88名(ネフローゼ60名、炎症性腸疾患11名、リウマチ疾患7名、臓器移植後7名、その他3名)に169接種(MRワクチン 51接種、麻疹ワクチン2接種、水痘ワクチン79接種、おたふくかぜワクチン37接種)施行しました。
2ヶ月後の抗体陽性率は、麻疹92.9%、風疹100.0%、水痘60.5%、おたふくかぜ52.8%でした。接種患者のうち、breakthrough感染症(ワクチン接種にも関わらず野生株の感染症に罹患すること)を起こしたのは1名のみ(水痘)でした。ワクチンによる有害事象としては、1名にワクチン株由来の水痘を発症し、2名に原疾患の再燃(ネフローゼ症候群再発)が認められましたが、致命的な有害事象はみられませんでした。
以上のことから免疫抑制薬内服中の患者でも免疫学的基準を満たした上での弱毒生ワクチン接種は有効であり、安全性も高いことが示唆されます。

今後の展望・コメント

免疫抑制薬内服中でも、一定の免疫学的基準を満たしていれば、弱毒生ワクチンの接種ができるような社会的なシステムを構築すべきであると考えます。そのためには、各種免疫抑制薬や弱毒生ワクチンの添付文書に記載されている「禁忌」という表現の修正について、厚生労働省や各種学会(日本小児科学会や日本小児感染症学会など)と相談していく必要があります。
そのための資料として、国内において免疫抑制薬内服中の患者にどのくらい弱毒生ワクチンの接種がなされているか、実態調査を行う必要があると考えました。今後、国内の小児の腎疾患、リウマチ疾患、肝・消化器疾患、固形臓器移植患者(腎臓、肝臓)を専門的に診療している480施設を対象に、免疫抑制薬または生物学的製剤を使用している患者への弱毒生ワクチン接種についての方針や、実際に接種した患者の数や重篤な副作用の有無などについて実態調査を行う予定です。この研究により、社会的な必要性や安全性を評価します。

発表論文情報

  • 現在、英文誌に投稿中
  • 当センターの前方視的研究概要紹介(当センター倫理委員会No 452、UMIN 000007710)
■学会発表
  • 亀井宏一、宮入烈、伊藤秀一
     免疫抑制薬内服中の患者への生ワクチン接種の前方視的研究
     第48回日本臨床腎移植学会 2015.2.5 ウェスティンナゴヤキャッスル(名古屋)
  • 亀井宏一、宮入烈、伊藤秀一
     免疫抑制薬内服中の患者への生ワクチン接種の前方視的研究
     第119回日本小児科学会 2015.4.19 大阪国際会議場(大阪)
■シンポジウム
  • 亀井宏一
     分野別シンポジウム8「子供の薬:適正使用、安全性と添付文書のはざ間で」
     免疫不全患者または免疫抑制薬内服中の患者への生ワクチン接種
     第120回日本小児科学会 2017.4.15 グランドプリンスホテル新高輪 国際館パミール、東京
■講演
  • 亀井宏一
     基礎疾患を持つ患児への予防接種
     東京腎炎ネフローゼ児を守る会 2015.5.17 国立成育医療研究センター 研究棟2階セミナールーム
  • 亀井宏一
     特別講演「基礎疾患を持つ児への予防接種」
     第8回中日本小児慢性腎臓病研究会 2015.12.6 フクラシア東京ステーション(東京)
  • 亀井宏一
     小児腎疾患と予防接種
     テーマ「予防接種について多角的な視点で考える」
     第28回成育臨床懇話会 2016.8.20 国立成育医療研究センター セミナールーム
■テレビ放映
  • 本研究の概要と今後の全国多施設調査について、2017年11月7日(火) 19時のNHKニュース7で放映された。
本件に関する取材連絡先

国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室

03-3416-0181(代表)

koho@ncchd.go.jp

月~金曜日(祝祭日を除く)9時〜17時


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