授乳と薬について

お母さんが飲まれたほとんどのお薬は、母乳の中に分泌されます。それでも、実際には母乳を飲ませても赤ちゃんに問題にならないお薬がほとんどです。

母乳はお母さんの血液からおっぱいの中にある乳腺で作られます。お母さんが飲まれたお薬は、血液に乗って乳腺に届きます。8割くらいのお薬は、母乳が作られるときにお母さんの血液よりもかなり薄くなることが分かっています。数少ない濃くなるお薬でも、実際に赤ちゃんがお薬を含んだ母乳をたくさん飲んで、腸で吸収されて赤ちゃんの血液にお薬が届いて、体のどこか働いて症状が何か出ないと有害にはなりません。そこまで至るお薬は非常に限られています。

日本では赤ちゃんへの影響を心配しすぎるあまりに、必要以上に母乳を中止する傾向があります。この理由は主に2つあります。1つには日本人の中に、「お薬を飲んでいると母乳をあげられない」という慣習が根付いているからです。お母さんがお薬を飲むのを諦めたり、人工乳(粉ミルク)の開発や宣伝も影響して、安易に母乳を中止したり捨てたりしてきました。もう1つには医師が参考にするお薬の添付文書のほとんどに、「授乳を中止させる」などの措置が記載されているからです。日本の添付文書は安全性を重視しているため、「お薬の成分が母乳中に出る場合は、授乳を避ける」ように記載されています。医師は添付文書を守らなければなりませんが、この添付文書も時代の流れにそぐわない点が指摘され始めています。

私たちは、今回2つの表を掲載しました。安全性が確立しているお薬の表と、有害性が確立しているお薬の表です。これらの表は、海外の様々な最新の医学的研究報告に基づいて作成されており、医学的根拠に基づいた情報です。慣習・迷信・噂などではありません。始めの表には、かぜ薬や一般的な抗生物質をはじめ日常良く利用するものから慢性疾患のお薬まで、母乳を飲ませても赤ちゃんに問題にならないお薬をあげています。もちろん、母乳を中止しなければならないお薬もあります。次の表にあげたように抗癌剤や放射性物質などがそれに当たります。

 必要がないのでればお薬を飲まないことが一番です。しかし現実には、お母さんの慢性疾患や妊娠・出産・育児などに伴って起きた新たな病気のために、お薬を飲まなくてはならない方が増えてきました。同時に近年になって母乳の研究が進み、母乳栄養の良い点がたくさん分かってきました。感染予防や免疫系あるいは神経系発達に対する優れた効果、また母児間の愛着形成を促進させる点などが科学的に証明されてきたのです。こうした母乳の利点を理解され、母乳育児を強く希望されるご家庭も年々増加してきています。

ただし、「母乳をどうするのがよいのか」を悩まれるときに、お薬の影響だけを考えて判断するのは十分とは言えません。なぜなら、無理をしてお薬をのまないと育児に影響するように、お薬によってお母さんの病気を安定させることが赤ちゃんの健康状態に役に立つことも多いからです。また、先に述べた母乳育児の良い点も考える一方で、数時間ごとに必要となる授乳がお母さんの体調に影響を与えることもあります。お母さんと赤ちゃんのこと、そしてそれぞれにお薬と母乳のことを考えて判断する必要があり、このことは決して簡単ではありません。私たちは、どのような場合も「お母さんの治療上の有益性」と「赤ちゃんへの安全性」を医師と十分に相談した上で、個別に対応する必要があると考えています。「赤ちゃんへの安全性」に関してはこの表を利用していただきたいと思います。しかし、お母さんに本当にお薬が必要なのか、そのお薬を飲むことによるお母さんの体への影響はないのか、お母さんは母乳があげられる状態なのかなどは「お母さんの治療の有益性」になります。その点はお母さんがお薬を処方していただいた医師にご相談ください。

医学は日々進歩しています。様々な今後の研究によって、授乳とお薬に関して情報が変化することも十分にあります。私たちも常に最新の情報を入手し、必要に応じて改訂していく予定です。


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