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脳神経外科
国立成育医療研究センター脳神経外科では、先天奇形、水頭症、脳腫瘍、もやもや病、てんかん等の多岐に渡る疾患に対し、個々の病態に応じた適切な治療を行っています。
こどもの脳神経外科
こどもの脳と脊髄の病気を外科的に治療することが“こどもの脳神経外科”すなわち“小児脳神経外科”の役割です。とは言ってみたものの、『小児脳神経外科ってなに?』『こどもの脳神経外科って、大人と違うの?』『こどもだからって、何が特別なの?』というのが大方の反応かもしれません。
さて、脳神経外科の仕事については頭部外傷やくも膜下出血の治療などを通してよく知られるようになって来ました。小児脳神経外科は脳神経外科学の中でも血管障害、腫瘍、脊椎・脊髄疾患、外傷、機能的疾患(てんかん、不随意運動、痙縮)と並ぶ独立した専門分野です。しかし、日本では小児の脳神経外科的疾患に対する特殊性の認識が不十分なため専門分化が遅れ、小児患者であっても一般の脳神経外科病棟で治療されているのが現状です。
小児脳神経外科の疾患を年令別にみていくと、新生児・乳児期は脳の未熟性による新生児頭蓋内出血や水頭症、脊髄髄膜瘤・二分脊椎のような先天奇形が代表的な疾患です。幼児期から学童期に入ると外傷、腫瘍の占める割合が高くなります。10台半ばになると疾患の様相も大分若い成人並みとなり、外傷が多くなります。成人の脳神経外科手術の中心である脳血管障害は小児では少なく、治療の対象になる疾患もモヤモヤ病など特殊な病態に基づくものが多いという特徴があります。又、同じ外傷でも大人とは違った経過、症状をとるものもあり注意が必要です。
こどもの診察・治療・手術においては常に発育・発達・自然矯正の視点を持つことが重要で、これは小児脳神経外科でも同じと考えています。小児の一生にわたる疾患として、脳の病変に対しては知能発育の観察が、脊髄病変であれば機能障害に対する援助が必要になります。身近な病院、地域の小児科医や保健婦との連繋も不可欠です。
国立成育医療研究センターは、国内で5番目の高度先進医療センターとして2002年3月に開設され、脳神経外科は新設科の一つとして活動を開始したところです。国立成育医療研究センターにおける脳神経外科の取り組む領域として4つの柱を考えています。
- 一般小児神経外科(水頭症、先天奇形、腫瘍など)
- 小児救急(頭部外傷、脊椎・脊髄損傷)
- 小児の機能的疾患(てんかん、脳性麻痺など)
- 周産期の脳神経外科(母体保護、胎児治療)
小児、という立場からは4は母体・胎児の治療で少し異なりますが、成育医療センターの担うべき役割に基づいて取り組む領域です。
この機会に小児脳神経外科で扱う主な疾患について、以下の内容で順次説明していきます。
外来診療について
対象疾患・専門分野
国立成育医療研究センター設立とともに歩み始めた脳神経外科の活動も6年目を迎えました.初年度である2002年の手術件数が64件でしたが,2006年には261件にまで伸び、小児脳神経外科を代表する施設として国内外から評価されるに至っています.今後は国内の指導的立場に甘んじるのみでなく、より広い視野をアジア・世界に求めてレベルの向上を図っていきたいと考えています。
一方、ナショナルセンターとして次世代の小児脳神経外科医及び小児脳神経外科エキスパートを育成するという役割も課せられ、大学の系列とは異なった独自の立場で研修できる場を提供してきました。これまで10名あまりの先生が研修されていきましたが,それぞれ所属機関における小児脳神経外科の中心と活躍されています。小児医療、かつ脳神経外科という3Kの重なる厳しい環境ですが、これからも小児脳神経外科を希望する若手脳神経外科医に出身・所属と関係なく研修できる環境を提供していきたいと考えています。
国立成育医療研究センターにおける脳神経外科手術では、麻酔科・手術室の協力の下に、外科系チーム医療及びICU・NICU・総合診療部の献身的な術後管理の下に難易度の高い手術を精巧に導いてもらっています。以下、国立成育医療研究センター脳神経外科で扱っている。主な対象疾患とその治療について概略します。
- 水頭症
- 水頭症治療の原則は脳室腹腔短絡術(以下VPシャント)ですが、当科では乳幼児であっても、適応があればご両親と相談の上積極的に神経内視鏡による治療を行なっています。通常は、第3脳室底開窓術が行なわれますが、必要に応じて嚢胞開窓術、中隔開窓術などをおこないます。当科で再評価した内視鏡的脈絡叢凝固術は国内外で大きな注目を浴び、今後も適応を広めていきたいと考えています。また、合併症の心配が尽きないVPシャント術に代わる内シャントを用いた手術を、適応を見極めて独自に取り組んでいます。胎児水頭症に対する取り組みも積極的に行なっており、新生児の状態・水頭症病態に応じて治療方針を立て手術を行ないます。現在まで、当センターにおけるVPシャント新設時のシャント感染の割合は2%であり、一般の5-10%と比較して大変優れているといえます。
- 二分脊椎
- 脊髄脂肪腫の手術は、脂肪腫の切除をPAL-1という電磁波を用いて行ない脊髄係留を解除します。困難な症例の紹介が増えてきていますが、術中生理学的手技を駆使して下肢運動機能及び排尿機能を温存した安全な手術を目指しています。脊髄髄膜瘤手術では、神経修復を脳神経外科で行ない皮膚欠損部の閉創は形成外科により行なっています。キアリ奇形に由来する呼吸障害に対しては大後頭孔及び上位頸椎減圧術が必要になりますが、頸椎減圧に当たっては骨形成的に行なうことにより将来の頸椎変形を予防する手術を行なっています。
- 小児脳腫瘍
- 小児の脳腫瘍は、悪性神経膠腫・髄膜腫・下垂体腫瘍が大部分を占める大人の脳腫瘍に比べて、種類が非常に多いのが特徴です。
小児5大脳腫瘍は、星細胞腫、胚細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫ですが、この他にもPNET、乏突起細胞腫、脈絡叢乳頭腫、神経節膠腫、AT/RT、松果体腫瘍、等々、たいへん多彩です。種類もそうですが、年齢、発生する場所、大きさによる違いも加わってきます。
このため、小児脳腫瘍の治療は、個々の病態に応じた、テーラーメードな(既製品でなく、個人の体型に合わせたオーダーメードの服を作るような)治療が必要になってきます。 当病院では、脳神経外科、腫瘍科(薬による化学療法を行います)を主体とした脳腫瘍治療チームが、放射線科、病理科、麻酔科、集中治療科、小児神経科、リハビリテーション科、内分泌科の各専門医の協力のもとに、脳腫瘍カンファレンスにて治療方針を決定し、手術・化学療法・放射線療法による包括的な治療を行っています。
外科治療は、必要に応じて、神経ナビゲーション(腫瘍や周辺の重要な脳組織の位置を正確に知ることができます)、術中神経生理学的手技(重要な神経機能をリアルタイムでモニターし、機能の温存を図ります)を用い、脳の深部から脊髄までの腫瘍摘出を行います。良性腫瘍(一般に手術で根治できる可能性が高いです)では、後遺症を残さないように、可能な限り全摘出することを目指した手術を行ないます。腫瘍が運動野・言語野のような重要な機能のある部位に存在する場合は、てんかん外科の技術を応用した機能同定を手術中に行ない、安全な腫瘍切除を目指します。出血しやすい、サイズの大きい、また周辺に重要な神経組織のある腫瘍では、まず組織診断を行ない、必要に応じて2回にわけて腫瘍切除術を行なうこともあります。重要な脳の機能が集まる脳幹部に浸潤した腫瘍に対しても、術中神経生理学的手技・神経モニタリングを駆使して可及的に切除しています。頭蓋咽頭腫などの下垂体(ホルモンが作られます)周辺にある腫瘍では、内分泌科と共同で治療に当たります。
また、まれな疾患であり画一的な治療の存在しない小児脳腫瘍に対し、日本における最新の治療を検討していく研究会議にも参加し、より良い治療の実践を図っています。 - 頭蓋骨縫合早期癒合症
- 頭蓋縫合早期癒合による頭蓋変形に対しては、形成外科と共同で頭蓋拡大形成術を行ないます。頭蓋変形が重度、あるいは複数に渡る場合は段階的に手術計画を練る必要が生じます。また、状況に応じて頭蓋骨延長器装着による矯正を図ることもあります。発達障害を伴った軽症三角頭蓋に対しては、センターの倫理委員会の承認を得て第1段階として頭蓋内圧測定を行ない、頭蓋内圧亢進と診断された場合にのみ第2段階として頭蓋拡大形成術を行なっています。手術を受けた患者さんの多くは社会性、言語発達などに改善を認めていますが、手術の直接効果によるものかどうかは慎重に評価しているところです。
- 頭蓋底病変
- 脳瘤の中でも最も治療困難かつ致死率の高い頭蓋底脳瘤(経蝶形骨型)に対する治療は現在のところ国内では唯一当センターで可能です。手術は形成外科と共同で経口経口蓋法で行ないます。巨大例では、更に二期的に前頭蓋底法で手術を行ない修復します。治療経過は一筋縄でいかないものですが、このような方法で下垂体機能あるいは視機能に障害出すことなく治療しています。
頭蓋頸椎移行部病変は、軟骨無形成症のような代謝疾患に伴うもの、骨異常に伴うもの、いずれも小児で極めて治療困難な場合も少なくありません。当センターでは、神経ナビゲーションを用いて、術中神経生理学的手技として運動誘発電位のモニタリング下に、減圧あるいは固定術を行なっています。 - てんかん
- 薬物治療が困難なてんかんに対しては、神経内科と共同で適応を判断して外科手術を行ないます。術前にビデオ脳波記録、MRI、脳血流検査、脳磁図などをもとにてんかん焦点の予測を行ない、まず硬膜下電極設置術を行ないます。これによりてんかん焦点の同定、脳皮質機能同定を行なった後、2回目の手術時にてんかん焦点切除を行なっています。
- 痙縮・脳性麻痺
- 脳性麻痺に代表されれる痙縮の治療は神経内科、リハビリテーション科と共同で行なっています。脳神経外科的には痙縮を減弱させる機能的脊髄後根切断術(主に脳性麻痺小児対象)、あるいはバクロフェンポンプ埋め込み術(脳炎、脳症後遺症、頭部外傷・脊髄損傷後遺症など)を行ないます。必要に応じて神経内科におけるボツリヌス毒素局所注入療法も行なっています。手術後のリハビリテーションも含めて、痙縮に対する包括的治療が可能なのは当センターならではの特徴と考えています。
- もやもや病
- もやもや病では、広範囲の脳に血液を送る内頸動脈が細くなったり、閉塞してしまいます。その代わりに非常に細い“もやもやした”血管が出来てきます。
しかし、この“もやもや血管”だけでは脳への血流が低下してしまい、一時的な手足のマヒや、言葉が出にくくなるなどの症状を生じます。このような症状を繰り返して脳梗塞や知能低下に至るものもあります。
治療は、脳への血流低下を改善するために、“血行再建術”を行います。血行再建術には直接法と間接法があります。
間接法では脳の表面に血管、筋肉、硬膜を付着させます。これらの組織から脳に入る新しい血管が数カ月かけて形成されて脳の血流を改善します。通常、小児のもやもや病では脳の血流が低下しているので新しい血管は非常に良く形成されます。
直接法では脳の表面の血管と頭皮の下を走行する血管をつなげます。手術した時点から脳の血流が改善します。個々の症例で検討して最善の方法を選択しています。
もやもや病 手術前
もやもや病 手術後
- 脳動静脈奇形
-
通常、動脈と静脈の間には毛細血管があり、高い動脈の圧が直接静脈にかかることはありません。しかし、脳動静脈奇形では、毛細血管を経由しないで、太い動脈と静脈が直接つながります。その結果、動脈の圧が直接静脈にかかり、壁の薄い静脈の血管が破れて出血を起こしてきます。
治療は、手術により脳動静脈奇形を取り除く、または定位放射線療法により脳動静脈奇形の血管を閉塞させることにより、脳出血を予防します。
手術は速効性があります。放射線療法では血管を閉塞させるのに2年程度かかりますが、脳の重要な機能が存在する脳幹部などでは、比較的安全に行えます。
出血の有無、部位、大きさ、症状に応じて、手術、定位放射線療法、血管内治療による塞栓術、またはその組み合わせによる最善の治療を行っていきます。
通常、術前に血管内治療による塞栓術を行い、脳動静脈奇形に流れる主要な血管を閉じておくことにより、より安全な手術を行います。
奇形種 手術前 |
奇形種 全摘出後 |
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脳動静脈奇形 手術前 |
脳動静脈奇形 摘出術後 |
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各疾患の詳細については、“こどもの脳神経外科”の項目を参照ください
実績
各年度毎の実績については、“脳神経外科年報”の項目を参照ください。
ここでは、昨年度(2010.1.1-12.31)の手術と、これまでの手術実績(2002.4-2010.12)を掲載します。
| 水頭症 | Hydrocephalus | 79 | |
|---|---|---|---|
| VP/SPシャント(新設) | VP/SP shunt, newly setup | 21 | |
| VP/SPシャント(再建) | VP/SP shunt, revision | 20 | |
| 神経内視鏡手術 | Neuroendoscopic surgery | 21 | |
| その他 | Others | 17 | |
| 先天奇形 | Congenital anomaly | 143 | |
| 二分頭蓋 | Cranium bifida | 4 | |
| 脊髄髄膜瘤 | MMC/Meningocele | 6 | |
| 脊髄脂肪腫(脂肪脊髄髄膜瘤含む) | Spinal lipoma | 29 | |
| 脊髄係留症候群 | Tethered spinal cord syndrome | 31 | |
| 頭蓋骨縫合早期癒合症 | Craniosynostosis | 27 | |
| のう胞性病変 | cystic lesion | 9 | |
| 頭蓋頚椎移行部病変 | CVJ lesion | 15 | |
| その他 | Others | 22 | |
| 腫瘍 | Tumor | 38 | |
| 脳腫瘍 | Brain tumor | 31 | |
| テント上 | supra tentorial | (25) | |
| テント下 | infra tentorial | (6) | |
| 脊髄腫瘍 | spinal cord tumor | 2 | |
| 頭蓋骨腫瘍 | skull tumor | 5 | |
| 機能的疾患 | Functional lesion | 7 | |
| 機能的脊髄後根切断術 | functional posterior rhizotomy | 4 | |
| バクロフェンポンプ埋め込み | ITB pump implantation | 3 | |
| てんかん | Epilepsy | 2 | |
| 焦点切除術 | Focus resection | 1 | |
| 硬膜下電極設置術 | Subdural electrode | 1 | |
| 血管障害 | Vascular lesion | 29 | |
| もやもや病/類もやもや病 | Moyamoya disease | 4 | |
| 頭蓋内外血管間接吻合術 | EDAS | (4) | |
| 頭蓋内出血 | ICH | 2 | |
| 脳動静脈奇形 塞栓術 | AVM/AVF embolization | 4 | |
| 直達術 | direct surgery | 4 | |
| ガレン大静脈瘤 | VGA | 13 | |
| その他 | Others | 2 | |
| 外傷 | Trauma | 9 | |
| 減圧開頭術 | Decompressive craniectomy | 2 | |
| 硬膜下血腫・液体貯留 | SDH/fluid collection | 2 | |
| 急性硬膜外血腫 | ADH | 1 | |
| 頭蓋内圧測定 | ICP monitor | 3 | |
| その他 | Others | 1 | |
| その他 | Others | 43 | |


まとめ
小児脳神経外科は手術だけでなく、その後の成長を見守ることも非常に大切になります。手術の対象となるこども立ちは何らかの障害を負っていることも少なくなく、経過によっては再手術、複数回の段階的手術が必要になることもあります。長期にわたる家族との信頼関係は治療を進めていく過程で欠かせません。
国立成育医療研究センターの歩みとともに、難易度の高い病変を伴った患者さん、あるいはこれまでの治療が思わしくなく紹介されてくる患者さんも増えてきています。どのような患者さんに対しても、小児脳神経外科の最後の砦としてできるだけの治療を提供できる実力を備えられるようにしたいと考えています。また、難易度の高い手術・新たな治療法の開発が待たれる分野に対しても、これまで通り関係各科と密接な協力をし、積極的に使命感を持って取り組んでいくつもりです。




