おくすりのはなし
「くすり」の役割
私たちはけがをしたり病気になると、「くすり」を塗ったり、飲んだりします。このように「くすり」は、人々の健康に欠かせないものの一つです。「くすり」により、それまで治らなかった病気が治るようになったり、手術をしなくても「くすり」で治るようになったりしてきました。
いま、世界では数多くの「くすり」が使われています。しかし、それでも十分ではありません。健康や生命を脅かすさまざまな病気に対して、今も新しいより良い「くすり」を待ち望んでいる患者さんが数多くおられるのです。このため、新しい「くすり」を開発する努力が世界中で日夜続けられています。しかし、研究者や医師だけでは、新しい「くすり」を世に送り出すことはできません。「くすり」を開発するためには、患者さんの理解と協力が必要です。
「くすり」の出来るまで…
「くすり」の開発は次のような過程で行われます。
- 人工的に合成されたり、天然に存在している 物質から抽出された何百何千という物質の 中から試験管を用いた実験などで、目的とす る作用を持ったいくつかの「くすりの候補」 を選び出します。
- ネズミやウサギ、イヌなどの動物を使って、 有効性(効き目・効果)や安全性(副作用の 種類・程度)についてくわしく調べ「くすり」 として期待されるものだけが最終的に残ります
- 「くすりの候補」の有効性と安全性を、人で確認します。このような人での有効性と安全性を調べる試験のことを「臨床試験」と言い、その中でも国(厚生労働省)から「くすり」として認めてもらうために行う臨床試験のことを「治験」と言います。
人と動物では「くすり」の効き目や副作用の現れかたが違うため、治験が必要なのです。例えば、動物では効いたのに、人では効果がなかったり、あるいは動物では何でもないのに、人にとっては有害な作用を引き起こすことがあります。人と動物では身体のしくみに違っているところがあるため、動物実験のデーターをそのまま人に当てはめることができないのです。もしも、正しい「ちけん治験」なしに、有効性や安全性がわからないまま「くすり」が広く使われるようなことがあれば、多数の患者さんが被害を受けることになります。

治験の進め方
治験は、通常3つの段階を踏んで進められ
- まず、少人数の健康な成人志願者あるい は患者さんに対して、ごく少量から少し ずつ「くすりの候補」(被験薬)の投与 量を増やしていき、安全性を調べます。 また、「くすりの候補」がどのくらい体 内に吸収され、どのくらいの時間でどの ように体外に排出されるのかも調べます。 この段階を第I相試験と言います。
- 次に、効果が期待できそうな少数の患者 さんについて、本当に病気を治す効果が あるのか、どのような効きかたをするの か、副作用はどの程度か、またどの程度 の量やどんな使い方をしたらよいかなど を調べます。この段階を第Ⅱ相試験と言 います。
- 最後に、より多数の患者さんについて、有効性や安全性を最終的に確認し、効果が期待できる病気の範囲(適応)や標準的な使い方などを確定することになります。このような最終段階の「治験」を第Ⅲ相試験と言います。
※第Ⅱ相試験・第Ⅲ相試験では、現在使われている標準的な「くすり」と比較して評価するのが普通ですが,標準的な「くすり」がないときにはプラセボ(外観は実薬と変わりませんが有効成分の入っていないもの)と比較することもあります。
この比較試験は公平で(例えば、一方に重症の患者さんが多く、他方に軽症の患者さんが多いといったアンバランスがないこと)、しかも客観的な方法によらなければならないのは当然です。そのために、担当の医師や患者さんの先入観が入らないように、医師と患者さんのいずれにも、標準的な「くすり」と「くすりの候補」のどちらの「くすり」が使われているのかわからないようにする方法(二重盲検比較試験)がとられることもあります。
こうして得られた結果を基に、国(厚生労働省)へ医薬品としてみとめてもらうよう申請し、承認されると『くすり』として発売(市販)されるのです。
みなさんとの信頼を守るための治験のルール(GCP)
「治験」では、新しい「くすりの候補」を人に使ってもらうことになるので、「治験」に参加していただく方々の安全と人権は最大限守られなければなりません。このため、治験を行うに当たっては、大変厳格なルールが定められています。
これは「医薬品の臨床試験の実施の基準」(GCP)と呼ばれ、国の法律(薬事法)に基づいたものとなっています。治験を科学的に行うことと、治験参加者の人権と安全を最大限に守ることを目的としたものです。
GCPでは、例えば次のようにあなたの人権が守られています。
- 治験で得られた結果は製薬会社の人や、国が承認するため、あるいは学会や論文で発表されることがありますが、治験に参加していただいた患者さんのプライバシー(お名前・ご住所等)に関する情報は厳重に守られます。治験が行われた病院あるいは関係者から漏れることは一切ありません。ための委員会(治験審査委員会)が作られています。
- 治験に不参加の意思を示した場合にも、不利な扱いはされません。また、一度参加することにした後に、それを撤回することも自由であり、その際にも不利な扱いをされることはありません。
- 治験を担当する医師は、治験を開始する前に、治験に参加してもらいたい患者さんや家族の方に治験の目的や内容について、説明文書を使って十分に説明します。医師の説明を聞いた後、治験に参加するかどうかの決定は患者さんの自由意思に任されています。
- 患者さんが治験の内容について十分な説明を受け、理解し、納得した上で、治験への参加を自分の意思で承諾した場合には(これを「インフォ一ムド・コンセント」と言いい、後で詳しく説明します)、その旨を文書として残し、患者さんにもお持ちいただきます。
- 治験を行う側の過失の有無に関係なく、損害は補償されます。
- 治験を行う病院には、治験の計画・内容について倫理的、科学的な観点から検討する
- 治験審査委員会には、治験に参加する方の人権を保護するために、病院とは利害関係のない委員や自然科学以外の専門家も加わっています。
- 治験審査委員会の審査で承認を得て、病院長が了承しないと治験は始められません。当院では、国立成育医療研究センター総長がこの任にあたります。
- 治験を行う病院は十分な検査や治療ができるなどの設備があり、専門の医師や看護婦等のスタッフが十分にそろっていて、緊急時にはすぐに必要な処置がとられます。
- 患者さんの治験への参加・継続の判断に重大な影響を与える情報が得られた場合には、速やかに患者さんに公開します。
副作用について
「くすり」には本来の効果とともに、期待しない作用が現れることがあります。これを副作用といいます。どのようなくすりであれ、副作用は大なり小なり存在します。ですから、大切なことは、むしろ副作用への対処方法なのです。副作用をいかに防止するか、また副作用が出た場合にはいかにそれを早期に発見して適切に対処するかが、とても大切です。これは治験の場合も同様です。
「治験」においては、特にこうした副作用に注意が払われます。医師も注意深く治験に参加した患者さんを診察しています。「治験」に参加している他の患者さんが経験した重大な副作用についても、医師には連絡されることになっていて、必要に応じてあなたにも連絡されます。
副作用が認められた時には、速やかな処置が行われます。
「インフォームド・コンセント」と治験
あなたは「インフォームド・コンセント」という言葉をお聞きになったことがありますか?
インフォームド・コンセントとは患者さんが治療を受けるにあたって、「かかっている病気のことやその治療方針について、十分説明を受け、患者さん自身が理解・納得した上で判断し、治療を受けることに同意する」という意味です。これは、通常の診療でも必要な事なのですが、特に「治験」の場合は研究的な側面があるだけに参加していただく患者さんの人権を尊重する意味から一層欠かすことのできない事なのです。
また、国立成育医療研究センターでは参加していただく患者さんがお子様の場合、お子様にも年齢層に合わせた理解できる用語や言葉で、可能な限り治験に関する内容の説明を十分いたします。説明内容を省略した場合は、そのことも含めて、そして代諾者からの同意とは別に「法的規制を受けない小児被験者からの同意(インフォームド・アセント)」を得ることにしています。子供の人権を尊重するために欠かすことのできない事なのです。
では、治験における「インフォームド・コンセント」はどのような手順で行われるのでしょうか。
まず治験を担当する医師が、治験の目的に合う患者さんに、治験に参加していただけるかどうかについて、お聞きします。そのときには、治験の目的や治験に使用する「くすりの候補」の特徴(予想される有効性や危険性)、治験の方法などが詳しく説明され、説明内容の書かれた文書も手渡されます。患者さんはわからないことがあれば、どんなことでも遠慮なく質問して、十分に知ることが必要です。その上で、治験へ参加するか、しないかを患者さん自身が判断し、参加する場合には同意書に署名(サイン)して、同意することになります。
つまり患者さんは担当の医師から治験の目的や内容、予想される効果や副作用などについて事前に十分説明してもらい、よく理解した上で、誰に強制されることもなく、自分の意思で治験に参加するかどうかを決めていただくことになるのです。
最後に
あなたが治験に参加してもよいと思った場合には「同意書」に署名(サイン)することになりますが、その場ですぐに署名しなくてもかまいません。説明文書も持ち帰ってご家族と相談するなど、あなた自身が慎重に判断してから返事をしていただきたいと思います。
治験では、参加していただいた方の人権を守りつつ、「くすりの候補」の有効性と安全性を慎重に検討します。こうしたことを踏まえて、皆様のご協力をよろしくお願いいたします。



