産科麻酔科部門

成育医療センター手術集中治療部では、開院当初より分娩の安全性と快適性の確保を目標に、帝王切開術や無痛分娩に積極的に関与してきた。2006年度の実績は分娩総数が1671件で、584件の帝王切開術と286件の無痛分娩を合わせると、全分娩の52%が麻酔科管理分娩であった。さらに2007年度には産科麻酔部門を設け、分娩の安全性と快適性のさらなる向上を目指している。
帝王切開術の標準的麻酔法は、これまで脊髄くも膜下麻酔と硬膜外麻酔の併用法(CSEA:Combined Spinal Epidural Anesthesia)としていたが、2007年5月より脊髄くも膜下麻酔に変更した。CSEAでは硬膜外カテーテルを用いて継続的な術後鎮痛が可能であるが、下肢の運動麻痺により離床が遅れる危険性が指摘されており、米国などでは肺塞栓の危険性を軽減するために脊髄くも膜下麻酔への回帰傾向が認められる。米国では、脊髄くも膜下麻酔で十分な術後鎮痛を達成するために、ブピバカインに加えて少量のフェンタニルとモルヒネを加えることが推奨されており、当院でもこの方法により良好な鎮痛と術後の早期離床を達成している。また現在、くも膜下に投与する薬剤の日本人での最適のレジメンおよび術後の嘔気などの副作用を軽減するための有効な方法などを比較検討中である。
帝王切開術の麻酔管理に関しては、その緊急度や重症度を適切に判断して適切な麻酔計画を立てることが重要である。そのためには産科医と常に緊密なコミュニケーションを持ち、ハイリスクの妊婦は事前に麻酔科外来に紹介してもらうようにしている。具体的には周産期の週間カンファレンスや、毎朝の産科病棟カンファレンスに参加し、常に情報を入手すると同時に、分娩中の産婦の急変時や他院からの緊急搬送にも的確に対応できるように産科医との連絡を密にしている。また手術室に帝王切開術専用の部屋を確保し、超緊急の帝王切開術にいつでも対応できるように準備をしている。
帝王切開術の麻酔管理と並んで産科麻酔部門の重要な役割が無痛分娩である。日本では未だに十分に普及していない無痛分娩であるが、成育医療センターでは開院当初より無痛分娩を積極的に行ってきた。これまでは手術集中治療部の人的資源の制約もあり、基本的には計画分娩で誘発開始前に硬膜外カテーテルを挿入することにより硬膜外麻酔による無痛分娩を行っていたが、2007年4月より標準的な方法を陣痛発来後に産婦のリクエストを受けてからCSEAでの無痛分娩を開始するように変更し、自然経過での無痛分娩にも同様に対応するようにした。これにより産婦の満足度と共に、助産師や産科医の無痛分娩に対する評価も大きく改善し、経膣分娩に占める無痛分娩の割合は大幅に増加している。
その他に当院では胎児診療科があり各種の胎児手術を行っているが、その麻酔管理も産科麻酔部門の重要な役割である。特に双体間輸血症候群(TTTS: Twin to twin transfusion syndrome)に対する胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP: Fetoscopic Laser Photocoagulation)は症例が豊富である。これまでFLPの標準的な麻酔法は全身麻酔としていたが、2007年6月よりCSEAに変更し良好な結果を得ている。
  産科麻酔部門の研修は1ヶ月を最低単位として受け入れている。基本的には産科麻酔の研修を通して、麻酔科医が分娩の安全性と快適性に貢献できるようになることを目標にしており、硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔の手技を研修する場とは考えていない。従って、産科麻酔部門の研修を希望するものは、事前にこれらの手技の十分な経験を有していることが望ましいが、産科麻酔に十分な意欲がある場合にはこの限りではない。日本の産科医療は岐路に立たされており、集約化を余儀なくされている。今後、産科麻酔は麻酔科の重要なsubspecialtyとして発展していくものと思われる。成育医療センター産科麻酔部門は未来の産科麻酔の担い手を教育する場を目標として掲げている。


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