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医療被ばくと発がんリスク

1. 始めに

レントゲン(単純X線検査)やCT、超音波やMRIなどの検査をすることで、病気を正確に診断し、適切な治療方針を決めることが可能となります。このように、検査には大きな便益がありますが、レントゲン検査やCT検査は放射線の被ばくを伴うので、将来的に発がんの増加の可能性(リスク)があります。

放射線を被ばくすると聞くとびっくりするかもしれませんが、私たちは、日常生活で自然放射線を浴びています。宇宙や大地から、そして食品や呼吸によって被ばくしています。食品には、カリウム(K-40)や炭素(C-14)などの放射性物質が含まれており、また、呼吸をするたびにラドンが肺の中に入り、肺の細胞は被ばくしています。自然放射線からの被ばくは、日本人の集団の場合、大雑把にいって、1年間に2mGyのガンマ線の全身被ばく(これを2mSvともいう)に相当します。

検査で用いる放射線の線量は多くの場合100mGy以下ですので、ここでは、100mGy被ばくに伴う発がんリスクについて考えます。

2. 放射線の発がんリスク

放射線の発がんリスクは、広島・長崎の原爆被ばくした人達等の様々な疫学調査に基づいています。放射線被ばくによって、白血病と固形がん(白血病以外の大腸がんや肺がん、乳がんなどのがん)が増加します。原爆被爆調査では、白血病は被爆後約2年で発生し始め、約6-8年後にピークに達し、その後減少しました。現在では、過剰発生はほとんどありません。100mGy以下の被ばくでの白血病の増加は有意ではありませんが、全体としては、白血病は被ばく線量を横軸にプロットすると二次関数的もしくは線形二次関数的に増えていきます。被ばくがない人の白血病の生涯リスクは千人あたり約7例であるのに対して、被爆者(平均被爆線量200mGy)では約10例(相対リスクは約1.5)に増えると計算されます。

一方、固形がんは、被ばく後10年を過ぎてから過剰な発生が認められます。固形がんも100mGy以下の線量では統計学的に有意なリスクの増加はありませんが、被ばく線量との関係は線形が最も適合し、明らかなしきい線量(それ以下の線量では影響が見られない線量のこと)は観察されていません。100mGyの被ばくで、相対リスクは約1.05と計算されます。原爆調査以外にも、100mGy未満のリスクに関する調査研究がいくつもありますが、たばこや食事、肥満・運動不足や感染などの他の発がん要因の影響に隠れてしまうことも多く、リスクの評価については、今も議論されています。

被ばくによる発がんリスクは、臓器によって異なります。原爆被ばく者の調査は、骨髄(白血病)、胃、肺、乳房、結腸、肝臓がリスクの高い臓器であることを示しています。一方、ホジキンリンパ腫、前立腺がん、直腸がん、子宮がんなどはリスクの増加はほとんどありません。

また、リスクは、被ばく時の年齢によっても変動します。国際放射線防護委員会報告によれば、こどもは大人に比べ放射線被ばくによる発がんリスクが、2〜3倍高いと推定されています。臓器別には、大人に比べ、骨髄や乳腺に加え、甲状腺、皮膚、脳などの臓器の発がんリスクが高くなっています。一方、肺がんリスクについては成人のほうが高いと報告されています。

3. CT検査と発がんリスク

近年、子どものCT検査による発がんリスクの報告が欧米で次々されています。例えば、英国の調査では、22才以下でCT検査(うち64%は頭部)を受けた患者178,604人を平均10年間ほどフォローアップし、発生した白血病74例と脳腫瘍135例の解析をしました。その結果、白血病の相対リスクは100mGy平均で3.6(原爆被ばくの場合の推定値は4.5)、脳腫瘍のそれは100mGyで2.3(原爆被ばくの場合の約4倍)でした。

ただ、この調査では、患者個人の被ばく線量がはっきりしないこと、また、脳腫瘍のリスクが若い患者でリスクが小さくなっているなど、他の報告と矛盾する結果になっていることが指摘されています。また、CT検査を受ける患者さんの中には、がんの徴候や既往歴がある人も含まれるので、このような患者を除くとリスクは小さくなった、統計的な有意な増加が観察されなくなったという報告もあり、医療被ばくによる発がんリスクの報告結果の解釈については注意が必要です。

4. 発がんリスクをさげるために

以上説明したように、放射線を用いた検査は発がんリスクを増加させる可能性があります。従って、医療現場においては、無駄な検査を控え、それぞれの検査における被ばく線量を小さくする(最適化)努力がされています。それは、総線量を少なくすることのみならず、1回あたりの線量が少なければ、総線量が同じでも発がんリスクも小さくなるという報告もあるからです。

がんは、食事や運動によってある程度予防できる病気です。原爆被ばくの調査では、緑黄色野菜または果物の摂取量が多いとがん死亡の相対リスクが低いと報告されています。また、動物実験では、カロリーを調節する(適正体重を保つ)ことで放射線の発がんリスクが小さくなることも報告されています。こどもの時から生活習慣に気をつけることで、がん予防ができることをしっかり教育していくことが大切です。

島田 義也(日本放射線影響学会 理事長, 公益財団法人 環境科学技術研究所 理事長)

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